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始まり
彼女を見かけることはそれ以来なかった。あのときどうして声をかけなかったか? そんなこと僕のほうが何度も後悔したさ。でもね、物事には正しいタイミングとそうじゃないタイミングがある。それは時間の経過とともに分かってくるものだがーあるいは、永遠に分からないものであるのだがー そのとき彼女に声をかけることは、正しいタイミングではなかったのだと思う。僕は自分が決断することになるべく躊躇しないように生きることを心がけている。結局のところは気の持ちようだ。 答えはあとでどうにでもなるものだよ。
僕は2010年に大学入学のために栃木から上京した。それほど田舎ではないし、確実に都会ではない。何もない辺鄙な町から移動してくることは、それなりの心の高揚があった。一人で生きること、そのことに対する憧れが人一倍強かった。もちろん経済的に見れば、独り立ちしたわけではないのだが、一人暮らしというだけで、少し大人になった気がした。