1本のワンド
「ここは・・・どこだ」
どうやら俺は森の中で眠っていたらしい。何でこんなところに居るのか、俺の個人情報まで、何も覚えていない。これが記憶喪失というものなのだろうか。
少なくとも、森と呼ばれる場所は人間にとっては危険な場所だ。森に迷った場合の対処法なんてわからない、とりあえず探索するしかないか。
「誰かいませんかー」
他にだれか居ないか叫んでみる。見た感じかなり深い森のようだ。あまり太陽の光も入ってこない。そんな場所に他の人が居るとは思えないが・・・
「呼んだかい」
森の奥から怪しい笑みを浮かべた女性が、ゆっくりと近寄ってきた
「良かった。俺の他に人がいて」
「なんだい。この森にはあたし以外の人間は居ないよ。過去、現代、未来、永劫にね」
なんだか胡散臭いが、他に人が居ないのなら仕方ない。途方にくれているよりかはずっといい。
「ここは何処ですか、俺は誰か知っていますか」
記憶喪失だと思われる俺が聞いたとしても、明らかにおかしいやつじゃないか。でも、自分が何なのか解らないと困るしなぁ。聞いてみるしかない
「なんだい記憶喪失かい。せっかくあのガキ人形の情報を手に入れようと、虚空から定着させたのに」
「もしかして、俺の事を知っているのですか」
まるで、知っているかのような口振りだ。本当に知っているなら教えてほしい。何時までも訳のわからない状態でいたくない。
「いや、よくは知らない。生きた死人が接触してたから、目は付けていたけど」
「つまりは、俺自身については殆ど知らないってことか・・・」
ガッカリだ。このままではどうしようも無いじゃないか、俺にどうしろと言うんだ
「あまりガッカリしなさんな、あたしがついていてやるよ。ここは協調の世界だ。何処かのバカみたいなさ、犠牲と繰り返しの残酷な世界じゃない」