20121031.txt
Trick or Treat!
妹「……結局、出演ちゃいましたね」
姉「だって、この衣装着てみたかったんだもんっ!」
妹「わたしも……です、可愛いですよね。うん」
姉「あたしとしては、アンタの帽子の方がよかったわね~」
妹「姉さんの方だって白いフリルが付いてて可愛いですよ?」
姉「そーなんだけどさ、ソッチの方がなんか紫系でオシャレじゃない?」
妹「うーん、それは髪色の関係上こうなったんでしょうね――」
姉「ん?何キョロキョロしてんの?」
妹「いえ……何か、こう静か、というか平和、というか大人しい?と言うのでしょうか――『居ない』ですよね?」
姉「あ~そういえばアイツ居ないわね、あの出しゃ張りが珍しいわ」
妹「まぁ、居ないならそれで安全で無害なんですが」
なんとも不可解な事態だったが、これはわたし達にとっては良いことだ。
ヘタに振り回されず――ただ指示通りの衣装を着てSSを提供する、なんとも簡単なお仕事だ。
――この衣装はやっぱり返却しないといけないのでしょうか……?
妹「――て、あれ?」
姉「どーしたの?」
妹「い、いえ……何かおかしいです」
ハッキリと何がおかしいとは断言できないが、猛烈な違和感があっ――
妹「――って!やっぱりおかしいですよッ!!」
姉「え?な、なに?どうしたのよ?」
もうハッキリ断言できる。
何がおかしいか、それは――
妹「わたしの……主観になってます」
姉「はぁ?」
やはり姉には理解が追いつかないようだが、それも仕方の無いことだろう。
えっと、皆さんはわかりますよね?
――はい、そうです。
今までは三人称視点……つまり神の視点から書かれたモノでした。
といっても、その『神』が登場人物であるわたし達に話しかけてくる変則的なモノなんですけどね。
わたしも物書きの端くれなので、この辺りの知識には割りと明るいのですが……何の意図があって手段を変えてきたのか、全く以って理解ができません。
妹「とにかく、あの出しゃ張りアラサーさんがですね」
コホンと咳払いをし、いいですか?と仕切り直す。
妹「――話の進行をわたしに投げてきたってところですね」
姉「そうなの?」
妹「そうです、なので――わたし達で話を進めないといけないワケですね……」
姉「……メンドイわね」
妹「とりあえず着替えます?この衣装もいつまでも着ていられません――」
姉「その前に片付けるわよ、この背景のパネルも邪魔だしね」
と言いながら、テキパキとわたし達の背後に張られたオレンジと黒のキツめな色合いの壁紙を畳んでいく。
そして、壁紙を剥がされて無骨なフレームを露にした背景パネルも手際よく解体していく。
キッチリと同じサイズのパ-ツ同士を紐で括り、綺麗に片付ける姉を目にし……思った。
妹「――なにもそこまでしなくても」
姉「いいのっ!こうしないと……なんか気持ち悪いし」
妹「姉さんって無駄に几帳面ですよね……」
何気にわたしの姉は几帳面というか、潔癖症な部分がある。
普段の言動で『面倒くさい』『適当でいい』とか乱発し、身勝手なノラネコのように思えるが、その実は『本棚の本はキッチリ背表紙が揃って納められていなければ気が済まない』とか『お茶碗に米粒を残さず綺麗に食べる』とか『空き瓶を処分するときも一旦綺麗にしてからじゃないと許さない』とか……きっといいお嫁さんになるんだろうけど、相手の男性はかなり大変だろうな~と何度も思ったものだ。
とにかく、その几帳面スイッチが入ってしまったので、大人しく片付けを始める。
姉「――?何かしら、コレ」
妹「はい?どうかしましたか?」
質問を質問で返しつつ、姉の言う『コレ』に目を向ける。
妹「本……草紙……でしょうか?そんなに厚みは無いですね――中身はなんです?」
姉「ガリ勉クンとか誰かのノートかと思ったわ――まだ見てないわ」
どれどれ~と姉はパラパラページを捲り始めた。
ちなみに姉はバ――もとい、勉強が苦手だが……基本的な文字の読み書きは出来る。
姉「……これは」
妹「――?何か…わかりましたか?」
姉「あはははは……」
力なく笑うと、無言で草紙を押し付けてくる。
怪訝に思い、顔を見やると……目を点にして、乾いた笑いを零している。
――字は読めるけど内容を理解出来なかったというところか……全く以って信頼と安心のINT3ですね。
妹「えっと……」
受け取った草書に目を通す。
そこには印刷された文字列が並んでいた。
――今月の月誌の進行概要について、
妹「これは……台本……いえ、指令書でしょうか」
姉「指令書?」
妹「進行をわたし達に押し付けつつも、やってほしいテーマがあるみたいですね」
姉「この本に書いてある内容をやればいいのね」
妹「そうです。わたし達それぞれに役割が振られているはずです」
姉「役割を演じろってトコかしらね」
そうですと頷き、むしろ脚本ではないか?と思いつつ草紙のページを捲る指を進めソレを見つける。
妹「あ、やっぱりありました。わたし達の役割ですが――」
監督:リルドナ
主演:リウェン
妹「――なんて割り振りしやがるんですかッ!?」
姉「普通なら逆にするわよね……てゆーか二人しか居ないのに……」
イタイだけですね、はい。
全く以って、とんだ悪魔の脚本だ。
姉「とりあえず着替えよっか……」
妹「……はい」
(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')+
被っていた帽子を、まるで長槍のような帽子掛けに引っ掛け、羽織っていたジャケットマントは備え付けのハンガーに吊るした。
次々と魔女服のパーツを解除しては片付けていく、ジャック・オ・ランタンをあしらったピアスや指輪などは宝石箱に詰めなおして、もう一度自分の身なりを確認した。
これで……全部かな?
間違いようも無く、今自分が身に着けているのは青白の縞模様の小さな布が上下に一着づつだけだ。
――幸いにも下着だけは脱がずに着替えられる衣装だった。
――不幸にも姉の衣装は完全に全裸にならないと着替えられない代物だった。
あのレタード状のインナーが曲者なんですよね~……。
わたし達はそれぞれ個室に別れて着替えているので実際は姉の状況はわからない。
……が、手際の良い姉のことだ、こちらも早く着替えないと急かされるに違いない。
止まっていた手の動きを再開し、真っ白なブラウスに手を掛ける。
――双鎌十字の二科生の制服だ。
もう着慣れてしまって、すっかり私服と化している。
ボタンをキッチリ襟元まで留めリボンタイを結び、これまた真っ白なハイソックスを履き、黒のプリーツスカートに手を伸ばす。丈は膝下五センチ、濫りに脚を出さない……見せませんとも。
ウエストをしっかりと落ち着かせてから、またしても真っ白な上着に袖を通す。
正確には真っ白ではなく、襟や袖口、あとは燕尾服のようにヒップラインまで伸びた裾の端などは黒を配色されている。この黒色部分、スカートもそうだが白いラインがポイントで入っていて地味ながら割りとお洒落なのだ、襟とスカートに至っては背面に当たる部分に白十字が入っている。
着心地を確かめつつ、姿見の前でクルンとターン。肩口から背中に掛けて配された水兵襟の所為で、どうも前後で服の印象が変わると思う。
いつも思うけど、これってブレザーなんでしょうか、セーラー服なんでしょうか……?
妹「にゅ!?」
わたしの足がターンの運動慣性をホールドし切れずに、ずるっ!と滑り……。
べたーん!とコケた。
妹「いたたた……」
しこたま打ち付けたお尻を摩り、涙目になりながら、最後の一枚――クリーム色のダッフルコートを羽織る。
一見すると白いローブにも見えるが、これは歴としたコート。
すっかり『いつも通りの格好』に戻ったわたしだが、どこか釈然としないでいた。
――遅いですよね?
何事もテキパキと綺麗に素早くこなす姉である、絶対わたしよりも早くに着替え終わっている筈だろう。
さらに言えば、気の短すぎる彼女のことだ――絶対にこちらの部屋に突撃して急かしに来る筈である。
それが、わたしが着替え終わった今尚、ドアノックの気配すら無い。
不審に思い、わたしは姉の着替えているであろう隣の個室へと向かった。
――何かあったんでしょうか……。
妹「姉さん、います?」
控えめにドアノックしつつ尋ねてみる、
――返事はすぐにドアの開放と共にもたらされた。
姉「あーっごめーん、すっかり脚本を読み耽ってたわー」
妹「……姉さん?ちょっと待ちやがれです」
姉が今身に着けているのは、わたしの制服とは対照的に黒を基調とした双鎌十字の一科生制服――ではなく、白ベースに淡い青系の色の襟とスカート……セーラー服だった。
よく見れば『超監督』と書かれた腕章まで装着している。
――確信犯かっ!
妹「姉さん、黙って速やかに着替えやがれですよ」
姉「え~、折角用意されてあったのに……別に普通の制服じゃない?」
妹「貴女が着ると、イロイロマズイんです。ええ、そうです、その黄色のカチューシャも、同じ色のサイドリボンも!」
姉「や、リボンってアンタもしてるじゃない?」
妹「いいですか?貴女がその髪型でやると絶対マズイんですっ!」
なんというか……『ホーンリバー・静靴』文庫的にかなりマズイです、はい。
尚も渋る姉を悪鬼羅漢の剣幕で従わせ、ようやくいつもの一科生の制服(ただし下は袴)に着替えさせられた。
妹「とりあえず、脚本を読んでたということは――」
姉「うん、わかった範囲で指示をだすわね」
妹「わかってない部分があることを認めてますね?そうですね?」
もう不安しか浮かばない……。
しかし、このノラネコのような姉は、そんなこちらの心配を意に介すワケがなかった。
姉「えっとね、十月ということでー」
妹「ということで?」
姉「テーマは運動会よ」
妹「もう十月終わるんですけど」
姉「そうなんだけどね~なんかホントは先月にしようとしたけど組み込み損ねたらしいわ」
妹「単なる予定調整の焼き直しじゃないですか……」
しかも、この人数で運動会と言っても……。
姉「と、言うわけで運動会の花形種目の――」
妹「有無言わさず進行してますねっ!?」
姉「パン食い競争よ!」
妹「花形というかベタすぎますね――ってわたしが出場るんですか?」
彼女はそうよと頷き、何故かいつの間にか展開された仮想グラウンドを指し示す。
どうやら空間が脚本の進行に連動しているようだ。
妹「えっと、それじゃあ体操服に着替えてきたらいいんですね?」
姉「うーん……あ、そのままで良いみたいよ、なんかそういうプレイらしいわ」
妹「今ご自分が何を口走りやがってるかわかってますか?」
あまり深くツッコミを入れると泥沼にはまりそうだったので、それ以上の追求は自重した。
とにかく、曲がりなりにも『走る』という行動をとることになるので、羽織っていたコート脱ぎ、不自然に出現していたクロークに納めた。
妹「では、このトラックを走ったら良いんですね?」
姉「待って、走る前にコレを持って」
姉が言う『コレ』を受け取り、眉を寄せる。
妹「何ですか、コレ」
姉「え、カバンだけど」
妹「それは見てわかります、何故ここでカバンが出てくるんですか」
姉「うーん、そう書いてあるのよね」
妹「完全に脚本の言いなりですか」
とは言ったものの、仕方の無いことかもしれない、この空間においてあの脚本は天啓に値する。
――逆らえる筈が無かった。
妹「では、行きますね」
姉「うん、頑張って――ヨーイ……」
一人で何を頑張れば良いやら……。
とりあえず、わたしは常駐させてある強化術式『動作保障』の出力を最低から三つほどレベルを上げた。
これで少し走り回る程度なら出来るようになる。
姉「――ズドンっ!!」
妹「それ何か違いますよっ!?」
律儀にツッコミを入れてしまいながらもスタートを切る。
何の変哲も無い土のグラウンドに消石灰でライン引きされたコース内を走る。
消石灰って強塩基性だから炭酸カルシウムにすべきじゃないのでしょうか?などと考えていると、早速『目的の物』が見えてきた。
パン食い競争と銘打ってるわけですから、やっぱりありますよね。
古典的なセットで、コース横切るように掛けられたポールより糸で吊り下ろされた……コンガリと香ばしく焼き上がった―――――――――――――――――――――――――――――――――四角いトースト!
妹「いや、違うでしょ!?こういう時って丸いヤツにしませんかっ!?」
なんだか今日はツッコミ日和な気がしますよ?
まぁ、形はアレですけど、パンはパンですし……ね?
妹「むぐぅ……」
なんとか口に咥え、そのままコースを走り抜ける。
これって結構キツイですよね。
トーストはコンガリ焼けすぎて、なんだか硬い。
――ですが、まぁ。まだ、普通の食品である時点でマシですか?
我慢しつつなんとかゴールイン。
競争相手も何も居ないのだから、なんとも寂しいゴールだったが、これで開放されるなら別に構わない。
――と、そう思っていた時もありました。
姉「第一ステージは終わりね、んじゃ第二ステージにいくわよ」
妹「むー!むー!!」
しゃ、喋れない……!
ツッコミが不発になってしまう!
妹<何ですか!そのルールは!?>
姉「霊子回線を使ってまでツッコミとはやるわね!」
そこに感心しないでください。
姉「とにかく、そのトースト咥えたままこっち来て」
妹<このまま続くんですか……>
そのまま姉に連れられ、なんだか曲がり角のような場所に配置させられた。
なんだか見通しが悪く、出会い頭に衝突しそうな雰囲気だ。
姉「じゃあ、ここで待機ね、GOシグナルが出たら、一気に飛び出して駆け抜けて」
妹<はぁ……トースト確保チャートとトーストホールドダッシュチャートに分かれてるのでしょうか?>
姉「そんなトコじゃないかしら?」
多分、その二つのタイムの合計を競うゲームなんだろうか。
最早パン食い競争の原型を留めていない気がする。
などと思考しつつ、カウントダウンに耳を預け――GOシグナルが灯った。
足に魔力を込め、爆発的に飛び出す。
無能「うぉぅ!?」
妹「きゃっ!?」
全力で飛び出したために、何者かに出会い頭に激突する。
――その衝撃でトーストが宙に舞う。
妹「す、すみません――て、エインさん!?」
無能「あ、あれ?なんでリウェンが居るんだ?確か俺はルークに蹴り上げられて――」
気の毒に。
……本編の話の途中で蹴り上げられたところで連載が止まってるから彼の時間もそこで止まっているんですね。
妹「とにかく、すみません!大丈夫でした――」
姉「はい!そこはツンと不機嫌に恨み言ぶつけて先を急ぐのよ!」
妹「どーいう展開ですかッ!?」
姉「それと無能、アンタはもう出番終わりだから」
無能「ぬぉぉおおおおぉぉぉぉ!?」
光の魔方陣に包まれ消え去っていくエインさん。
どうやら役割終了したらしい。
というか、わたしにぶつかる為だけに召喚されたのか……。
(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')(*'-')+
妹「ゴ、ゴール……」
姉「はーい、お疲れさまー!」
何故か市街地のような道路と化したグラウンドを駆け抜け、
これまた何故か学校の門の様に変化したゴールゲートに辿りついたのだった。
いくらなんでも空間歪め過ぎじゃないですかね?
妹「つ、疲れました……いろんな意味で」
姉「ほいほい、完走おめでとう、これ景品ね」
妹「はい?」
差し出されたのは可愛らしいラッピングの紙箱。
この形状から察する中身は――、
妹「開けて良いですか?」
姉「どうぞ」
手に持った箱の質量、
鼻腔につく独特の香り、
やけに嬉しそうにしている姉の顔、
ここにきて一気に要因が出揃った。
そう中身は――、
妹「生チョコケーキ」
姉「アンタ好きでしょう?」
彼女はそこで嬉しそうに息を吸い込み、
姉「お誕生日おめでとう!」
そうなのだ、今日……十月三一日は、わたしの誕生日だったのだ。
妹「姉さん……」
姉「サプライズよ、サプライズ!」
あのアラサーと姉がグルだったのか、その逆なのかはわからないが、随分と前フリの長すぎるサプライズだ。
姉「もう、アンタ自分の誕生日って忘れてたんじゃないの~?」
妹「いえ、そういうわけでは――」
ニヤニヤのドヤ顔の姉を見据え、一際大きなため息を吐いてから宣告した。
心臓に杭を打つ勢いで宣告した。
妹「姉さん、貴女の誕生日でもあるんですけど?」
姉「――あ」
ええ、双子ですから。
やっぱり信頼と安心のINT3だった。
こんなオチで良いんですかね!?
投稿直前にコピペしようとしたら、かなりの部分を消しちゃったあせこさんです、こんばんは。
すっごい未完成のままの投稿となりました……日を改めて修正します;