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5 花婿の秘密 (前)

 それから間もなく儀式は始まった。まずはファランの成人式で、そこで初めて一族の籍に加えられることになる。父威龍帝が冠を授け、玄峰の捧げてきた巻物に署名をするのだ。


「ファラン、これへ」


 父に呼ばれて、皇族や家臣の居並ぶ中、玉座まで進む。

 そこには、皇太子蒼武と皇后鳳潔、そして今や皇帝の第二妃としの地位を確かにした懐妊中の淑陽がいた。翔豪の姿も見える。

 鮮やかな珊瑚色の衣装の鳳潔はファランの緋色の衣裳に露骨に不満の色を隠せないでいる。反対に、鬱金(うこん)色の衣裳の翔豪と淡い曙色の衣裳をまとった淑陽は、どこか寂しそうな、それでも満面の笑みで迎えてくれる。

 この六年間、ファランと淑陽は親子というよりは姉弟のように慕いあってきた。ファランにも、これからはもう私的に淑陽の元へ遊びに行けないのだという淋しさがこみ上げてきた。それを抑えながら(ひざまず)いたファランに、皇帝は


「そなたには、琥珀三位を授ける」


と宝石のついた金糸の帯を与えた。途端に驚きの声が漏れる。それはつまり、臣下の位だったのだ。ファラン自身も少し疑問に思いながら、ただ誰かの安堵の嘆息を聞いて、この意味を悟った。

 続いて銅鑼(どら)の音が鳴り響いた。婚儀である。花嫁の美鈴は、淡い梔子(くちなし)色の衣裳で可憐に現れた。ここで先程の巻物に美鈴も署名をして、晴れて二人は夫婦となった。

 六年ぶりの、しかも光の御子の婚礼とあって、ツィンユンの城下は歓声が止まない。祝福の花びらが降り注ぐ中、城内の窓から二人は何か夢心地のまま国民に挨拶した。

 たくさんの、人、人、人…。ファランは生まれて初めて、こんなにもたくさんの人間がイムハンにいることを知った。


「みんな、みんな私たちのことお祝いしてくれているのね…。」


 感極まったように美鈴が呟いた。少し鼻を啜り上げている。


「泣いちゃったらせっかくの美人が台無しだ」

「いやだ、ラン兄様ったら」

「今日からもう“にいさま”じゃないよ」

「はい、…殿下」

「…なんか照れちゃうね」

「うん。でも琥珀の位って、どうしてにいさ…殿下は臣下の位なのでしょう? 何かの間違いじゃ?」

「わからないよ。でも、お父様…陛下のことだから何かお考えがあってのことだと思う。それに…、臣下の方が気も楽だ。僕は、僕のままでできることを果たしていくよ」

「私もお手伝いするわ」

「ありがとう」


 ここまではうまくいくかに見えた新婚の二人であったが、問題は初夜だった。




「ちょっと待って、どうしてここに女官がいるの!」


 驚くべきことに、夫婦の寝室となる新たな部屋に、女官たちがついて入ってくるのだった。


「殿下、私達の勤めは初夜が首尾よく進むか見届けることでございます」

「そんなもの必要ないよ! 以前にちゃんと説明を受けた!」


 しかし実際のところファランは耳栓をしていたのだった。


「美鈴様はまだ説明を受けていらっしゃいませんから」

「僕が自分でするよ、いいから下がってください!」


 ファランは慌てて女官たちを締め出した。またもや昔と同じ“癇癪”を演じるはめになろうとは。何のことかさっぱりわからない美鈴はきょとんとしている。


「どうしたの? ショヤって何か特別のことをするんでしょ?」

「いや、特別ってほどのことはないよ」


 ファランはますます慌てた。 「美鈴も疲れただろう、僕も疲れちゃったんだ。今日は早く寝ようね」

「それって、あの寝台で、一緒に寝るってこと?」

「? …ああ、そうだね」

「私…お母様に聞いたんだけど、ショヤって、子どもができるようなことをするんでしょう?」

「!」

「そうしたら、服を脱いで一緒に寝るのよね?」

「!!!」


 まさか、美鈴が初夜の意味を理解していたとは。


「どうするのかまでは聞いてないわ。でも、ちょっと怖いわ。 けど、…私、ずっとにいさ…殿下のことが本当に好きでした。 だから、殿下、その…優しくしてくださいね」


 その告白は、ファランにとっては衝撃以外の何物でもなかった。

 美鈴が、自分のことを一人の男性として恋していたということだ。ここまでくると、もう逃げ切れないだろうか。いや、とにかくこの場を一度離れなければ、とファランは考えた。


「う、うん、そうだね。まず湯を浴びてくるよ。美鈴は寝着に着替えてていいからね」

「私は浴びなくていいの?」

「あとで呼びに行くから、待ってて」


 美鈴を一人残し、部屋から出たファランはひとまずその場にしゃがみ込んでしまった。

 まだ何も知らない子どもだと思っていた。自分のこの秘密は、隠しきれたらそのままでもいいとさえ思っていた。だからこそ結婚にもそこまで不安を持たなかった。

 いずれは説明しようと思っていても、今ここ理由を明かしてしまうには美鈴はまだ幼すぎるのではないか。ファランはやはりまずあのひとに打ち明けよう、と思った。

イムハンでは、基本皇族が着る色を赤〜黄系としています。

色のスペクトラムのような感じで身分と着る色が決まっているのです。

皇帝は、可愛い子の結婚式だから自分の次に高貴な色を着せたのですが、

後継問題を考えて身分を下げたということです。


位については宝石の名前がついていますが、

あんまり深く設定していません(汗

大体、鉱物でないものは臣下という感じですかね。

またいつか決めようと思います・・・。

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