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12 残酷な使命 (後)

ちょっと今回は百合・・・?

 その夜は軍議だった。

 ファランは与えられた8騎の内訳を知った。指揮官の将軍が一人と騎馬兵が6人、そして見たこともない、薄汚い包帯だらけの男がいた。

 将軍はファランも幼い頃からよく知っていた人物だったため、信頼して任せることができた。彼は翔豪の辿ったであろう経路を推測し、恐らくは幽江(ゆうこう)の先にある隣国のスオリムに入っただろうという結論に至った。


「身軽な1騎、しかも将軍にもなれる程の武道に長けた方ですから、陸路では到底追いつきますまい」

「それなら、幽江を越えた先の緑海(りょっかい)を船で行くのはどうでしょう。緑海はスオリムの領海ですから」

「先回りということですね、私も殿下と同じことを考えておりました」

「では、スオリムに使者を出すように蒼武様と鳳潔様に頼みます」

「お願いします。ところで・・・あの包帯だらけの男は誰なんですか?」


 ファランは将軍に訊いてみた。


「今回我々に同行する薬師(くすし)ですよ。玄峰様が連れて来たそうです、腕も確かだとか」

「そう・・・ですか・・・」


 将軍たちが下がり、軍議を終え独りになったファランの元に美鈴が近づいてきた。


「ラン兄様…」

「美鈴、いろいろとすまない…」


 火事・審議と目紛るしい出来事が重なり、今やっと落ち着いて二人きりで言葉を交わせる時がきたのだが、いざとなると却ってファランには美鈴を正視することができないでいた。


「…翔豪を逃したのは僕だ」

「ええ、そんなのわかってるわ」


 美鈴はファランに駆け寄るといきなり抱きついた。


「え」

「ありがとう。兄様を助けてくれて」


 驚いて身を(かわ)そうとしたが、その必要はないのだと美鈴の笑顔が教えてくれた。


「全部淑陽様が話してくださったの。私も、一応その…妻なんだから秘密は知っておいていいはずよ」

「ごめん、本当は、あの朝話すつもりだったんだ。でも、機を逃してしまって…」

「びっくりしたけど…ちょっと悲しいけど、貴方という人間が変わったわけじゃないのよね。命に関わることだもの。本当はお姉様になるけど、これからも…ファラン兄様と呼んでもいい?」


 美鈴は、少し涙ぐんでいた。


「うん、うん!」


 今度はファランから抱きしめた。

 ーーいつまでも大切な、愛らしい僕の従妹。


 そしてファランは、翔豪が脱出した時のことを語った。


「やったのは翔豪でもない、もちろん僕でもない。だから、助けるために僕は翔豪が逃げたのとは違う方向に行こうと思っている」

「そんなことができるの?」

「あの将軍は、信頼できる人物なんだ。いずれ真実を話すよ」

「でも、ラン兄様は…いつか帰ってらっしゃるんでしょう?」

「僕に帰って来てほしい? その時は、翔豪の首を取って帰らなければいけないんだよ」

「……!」

「これは、体のいい国外追放だと僕は思っている。こんなことになった以上、疑惑の種は少しでも減らしておきたいんだろう」

「私が、男子だったら良かったのにね…。何処にでも一緒について行けたのに」


 ファランは美鈴を見て、少し淋しく笑った。

 男子だったら良かったのは、僕の方だ。

 そうすれば、みなここまで悲しむことはなかった。


「ただ、今のツィンユン…イムハンは危険だ。父上を弑した首謀者がはっきりしていない上に、淑陽様はご懐妊なさっている。美鈴、君には淑陽様のことを頼みたい」

「え?」

「今はまだ兄上の即位も父上の葬儀も済んでいないけど…、美鈴もイムハンのしきたりを知ってるでしょ?」


 イムハンのしきたりとは、王の死後、次王となるべき後継者が自分の生母以外の妃(側室たち)を受け継ぐという、遊牧騎馬民族時代から続く因習(いんしゅう)だった。


「…それじゃ、淑陽様はこれから蒼武様の妃に?」

「そう。そして…御子は兄上の子とされる可能性が高い。その子がもし女の子だったら…」

「ラン兄様と同じように、命を狙われるの?」

「まだはっきりとはわからないけど、でも兄上と太子妃様との間にまだ子どもがいないから、ややこしくなるとは思うんだ」

「そんな…」

「他人事みたいに言ってるけど、妃を受け継ぐのは親子だけでなく兄弟の場合でもだよ、美鈴」

「兄弟って…」


 美鈴の眉がぴくりと動く。


「僕が帰って来なかった場合、君もいつかは兄上の後宮に入ることになる」

「そんな! イムハンの姫は正妃にしかならないのよ?」

寡婦(かふ)はまた別なんだ」


 特に、イムハンの継承権が高い美鈴には再婚は認められず、後宮に入るか尼僧になるしか道はない。再婚相手にはもれなく継承権がついてしまうからだ。


「いやよ! ラン兄様以外の人と結婚するくらいなら死んでやる!」

「え、あの、美鈴、落ち着いて。そうしたら誰が淑陽様と御子を守るの?」

「え? そ、そうか…じゃあその時は尼寺に淑陽様と一緒に行くわ」


 美鈴の威勢にファランはたじたじとなったが、それでも救われる思いだった。


「じゃあ…頼まれてくれる?」

「任せて!」


 熱のこもった瞳で美鈴はファランを見た。


「ラン兄様のお留守は、しっかりと守るわ。蒼武様が皇帝になられたら、恩赦を出してもらえるように淑陽様とお願いしてみる。だから、きっとご無事でね」

「うん、美鈴もね・・・!」


 ファランは美鈴の頭を優しく撫で、もう一度抱きしめた。

美鈴が一番書きやすい子だったので、留守番にするのがちょっと残念だったりします・・・。

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