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11 残酷な使命 (前)

 被疑者である翔豪の逃亡の報せは瞬く間に彩露城内に広まった。

 その昼には、ファランは謁見の間に設えられた席に座っていた。今度は罪人としてではなく、証人として審議に召集されたのだ。

 淑陽も、美鈴も呼び寄せられている。やはり鳳潔皇后は苦々しい面持ちのままだった。

 審議の口火を切ったのは小男の宰相だった。


「では、ファラン殿下にお尋ねします。翔豪様…は夜の闇に紛れて逃走したということですね?」

「ええ…。直接現場を見たわけではありませんが、馬の足跡が発見されました」

「しかし明け方頃、馬の足音を聞いた者がおります」

「それは私の馬でしょう。厩舎(きゅうしゃ)で一頭いなくなっていることに気づいたのが未明でしたから。足跡を辿って行けるところまで追ってみたのですが…既に遅かったようです」

「それは、お前の手落ちだな、ファラン?」


 皇太子・蒼武が冷徹な一言を差し挟む。


「そうじゃ、今一歩というところで謀反人を取り逃したのじゃ!」


 鳳潔も我が意を得たりと賛同する。この親子は、どうしてもファランに矛先を向けたいのだろう。


「畏れながら陛下、一方この度の騒ぎには火災もありましたし、消火に人手も取られていました」


 よく通る美声は、あの玄峰だった。


「ファラン殿下には、消火の際とても尽力していただきました。御礼を申し上げまする」


 少し意表を突かれる言葉だった。

 それとは対照的に、宰相が玉座の方を伺いながら小さな目をしばたたいた。


「よ、よろしいでしょう。ファラン殿、今回の一連の事件について、ご自身は何の関連もなく潔白であるとおっしゃいますか」

「はい。火事のあった時には、私は牢に入っておりましたし、 翔豪と連絡を取り合う(すべ)もありませんでした」

「ではあの毒薬の瓶はどうなるのかえ?」


 鳳潔は飽くまで対決の構えである。


「あの瓶については、私は本当に身に覚えがないのです」

「しかし、 もし翔豪が一人で事を起こしたとなれば、お前に罪をなすりつける必要はあったのかのう。もしくは、自分が名乗り出るということも…」

「お待ちください陛下!」


 立ち上がったのは、なんと美鈴だった。


「私は、兄が宮殿に火をかける前に会っております。本来は皇帝陛下ではなく蒼武殿下を狙い、ファラン殿下と争って帝位を奪うつもりが当てが外れ、この上は火災に乗じて宮殿を乗っ取る計画であると話をされました。本当です! 兄が逃亡してしまった今、私が代わりに罰を受けます!」


 まさか、翔豪はここまで計画していたのだろうか? ファランは淑陽の方を振り返った。美鈴と目配せをしている。まさか、馬の手配だけでなく美鈴の証言も用意してくれていたのか…。ファランは思わず立ち上がっていた。


「美鈴を罰されるのであれば、夫である私も同様です。また、翔豪を逃してしまった罪についても、いかなる罰を受ける覚悟です」

「ふん、わかった」


 返答は蒼武からだった。


「罪を償う覚悟があるならば、翔豪追討(ついとう)の命をお前に出そう。いいか? 自分の潔白を証明したいのなら、謀反人の首を取って帰って来い。父である皇帝を弑し、皇太子でありお前の兄である俺の命を狙った男の首をな」


 鳳潔の抑揚の強い声がそれに続いた。


「不服でもあるのかのう、ファラン? そなたはこの誇り高きイムハンの皇子として、責任を果たさねばなるまい」

「・・・不服など・・・ありません」


 ファランの傍に、玄峰が封のされた手紙を持って来た。


「これは?」

「近隣の国に行くための通行証でございます」


 返答した玄峰に被せるように蒼武が続ける。


「翔豪は国外に逃亡した可能性が高いだろう。お前の身分を保証する物でもあるから、肌身離さず持っておくんだな。それから、一小隊8騎をお前に与える。出発は明朝だ」

「たった、8騎ですか・・・?」


 ふん、と蒼武は鼻で笑った。


「かつてイムハンの先祖は17騎でミルヴァルの兵2000を蹴散らしたぞ。謀反人一人に大軍隊を出してどうする。一騎打ちにしてもいいぐらいだ」


 事も無げに言うが、蒼武が武術らしい武術をしているのをファランは見たことがなかった。


「では、私もランにい・・・ファラン殿下と共に行きます!」


 ファランが隣に座らせていた美鈴が再び立ち上がった。だが、


「それはならぬ」


 と鳳潔皇后の一声でまたすごすごと席につく。


「イムハンの娘は国を出てはならぬ。家族を外で守るのが男なら、内で守るのが女子の勤め」


 それだけではなく、そのまま自分たちが逃亡することを恐れているのだろう、とファランは考えた。

 美鈴は臣下に嫁したとはいえ正統な継承者の一人でもある。謀反人とともに逃がしたとなればイムハンの権威にも傷がつくだろう。


 こうして、ファランは翔豪追討軍の命を受けることとなった。

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