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10 黒い牒(ふだ)(後)

 真っ先に思い出したのは、あの場所だった。

 五年前、まだ幼かった頃翔豪と探検した、そして淑陽と出会った後宮の秘密の抜け穴。


 その部屋は今でも無人だった。昔病死した姫が住んでいたということだからなのだろう。

 寝台の下の扉からは、やはり僅かに風が吹き出していた。いつの間にか白瑛がついてきていた。

 石造りの階段を降りていく。

 階段の下の行き止まりには、果たして翔豪がいた。


「やっぱりお前にならわかると思った」


 翔豪はいつものように明るく笑っていた。


「だって、僕たちの気持ちはいつも一つだろう。・・・これみたいに」


 ファランは貨幣を取り出して見せた。


「そう、どちらも同じ、表裏一体だ」

「ならば、どうしてこんなことを? お父様を殺したのは君でもない、それはよくわかっている。でもなぜ宮殿に火をかけた? 捕まったら死罪だぞ」

「勿論そうだ。だが、お前が殺したのでもない。オレはお前が死ぬのも、美鈴が悲しむのも見たくない」

「じゃあどうするんだ」

「オレは国を出る。そうすれば、反逆者はオレということになり、お前は罪を(かぶ)らなくて済む」

「そんな…!」

「それ以外にいい方法があるのか? 誰も死ななくていい方法が」


 白瑛も「そうだな」と言った。翔豪にはただ鳴いたようにしか聞こえなかったのだが。

 ファランは黙るしかなかった。

 爪先上がりの上り坂を見上げると、塞いでいる巨石の隙間から月の光が洩れている。五年前のように。


「ファラン、覚えてるか? あの石は、五、六年もあれば動かせるかもしれないってこと。ちょうど五年だ。今のオレたちなら、きっと動かせる」

「・・・!」


 白瑛が「淑陽様のところに行ってくる」と階段に消えたので、ファランの決心も固まった。


「・・・わかったよ」


 そして、二人は巨石を取り除く作業を始めた。

 五年も立っているとは言え、ファランの筋力は実際、翔豪のそれとは比べるべくもなく非力なものだった。それでも、必死に二人で石を運んだ。音を立てないように、細心の注意を払いながら。


 それが終わったのは月が大陸に沈みかける頃だった。空も濃紺からややコバルトがかり始めている。

 外で馬の鼻息がした。白瑛から連絡を受けた淑陽が首尾良く手配してくれたのだろう。


「どうしたんだ、あの馬は?」


 振り向く翔豪に、ファランは答えた。「あれに乗って行けばいい」


「ファラン、お前、いつの間に…」

「いいから、早く行ってくれ」


 翔豪は、感極まった顔をして、ファランを抱きしめた。


「お前も一緒に…」


 咄嗟にファランが身を離したので、翔豪の呟きが聞こえなくなった。


「え?」

「いや、いいんだ。お前は、この国で幸せになってくれ。元気でな。美鈴のことを頼む」

「ああ…無事に生き延びてくれよ。いつか、絶対に会える日を信じてる」


 穴から飛び降りた翔豪が、馬に乗ってファランに手を振った。振り返したファランは、翔豪の姿が見えなくなるまで、涙を(こら)えていた。

 翔豪が何を言いたかったのか、ファランにはわかっていたのだ。

 けれど、国を抜けるのに非力な自分は、やはり足手まといになってしまうだろう。それに、このまま逃げては自分が謀反人だと名乗ることになる。淑陽を、美鈴を、置いて逃げるようなことは自分にはできない。


「またいつか、僕が責任を果たせるようになったら…」


 明けていく東の空にファランは固く誓った。

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