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マーガ  作者:
第二章 魔女は何でも知っていない
9/30

2-3

 放課後、星羅は分室で黙々と何かを作っているようだった。

 ビーズのアクセサリーを作っているのだろうかと大輝はそっと覗き込んでみる。

 一樹がパソコンや携帯電話からできる分室の予約システムを作ってくれたことで相談者が来ない時間大輝は分室にいられることになった。

 一樹がそんなものを作り上げてしまったことよりも、星羅がパソコンを使えたことに些か驚いたのだが、触れてはいけない話題のような気がした。魔女だからと言って偏見を持たれることを彼女はきっと好まない。

 飛び込みの相談者がやってきた時には生徒会室に避難してもいいと言われたが、大輝としては遠慮したいところだった。その時は図書室にでも行こうと思っている。

 星羅も相談者がいない時間は勉強をしているのだと言う。

 だから、頭がいいのだと大輝は納得したが、星羅は魔女には教養が必要なのだと言った。

 けれど、今は勉強には見えない。


「頼まれた恋のお守りを作っているの」

 集中しているようで、声をかけてはいけないと思ったのだが、星羅が答えた。大輝の気配にも気付き、聞きたいことも察したようだった。

「へぇ、そういうのも作れるんだ」

「おまじないを教えることもあるわ」

 おまじない、なんて女の子らしい響きなんだと思ってしまう。

 彼女が作っているのもピンクのビーズを使った可愛らしいものだ。ストラップにするのだろうか。それらしいパーツが置かれている。

「ライバルを蹴落とすおまじないとか?」

 大輝は床に荷物を置いて、座り込んで冗談混じりに聞いてみる。すぐにノスフェラトゥがやってきて、じゃれてくる。

「あたくしに使えるのは白魔術、黒魔術に手を染める気はないわ」

「回復魔法とか?」

 大輝に浮かぶのはゲームの中のことくらいだった。

 星羅が眉間に皺を刻む。

「あたくしは魔術師ではあっても魔法使いではないのよ。だから、できるのはただの可愛らしいおまじないよ」

 魔術師も魔法使いも同じとしか思えないが、星羅の中では別物のようだった。

 それは追々教えてもらえばいいのかもしれないが、今、一番知りたいことはそうではない。彼女が病気や怪我を治せるかは大樹にとって気にすることではない。

「じゃあ、婚約話をなかったことにできるおまじないみたいなのないかな?」

 おまじないに頼るようになるとは末期だと自分でも思う。

 《魔女》に頼っている時点でもう駄目なのかもしれない。

 振り払うように大輝は猫じゃらしに手を伸ばした。猛烈な勢いでノスフェラトゥがパンチをしてくる。

「悪い縁を切ることはできなくもないけれど……」

 そこで星羅は言い淀んだ。

「たとえ、今、あなたが切りたがっても、それは切れる運命ではないかもしれない」

 拒んでも、足掻いても、家のためと思えば仕方がない。そうなってしまえば、諦めて彼女を好きになる努力をするかもしれない。

 彼女にはそれが見えないからこそ、期待させるようなことは言いたくないのかもしれない。

「だから、基本的に縁切りはあたくしの専門外」

「じゃあ、専門は縁結び?」

 今作っている恋のお守りもそのためのものなのだろうか。

「あたくしは皆を幸せにしたいの」

「うん、それ、凄くいいと思う」

 彼女は優しい。本気でそう思っているのだとわかった。

「あたしもみんなで幸せ計画には大賛成だよーっ!」

 急に飛び込んできた声に大輝はビクッと体を震わせた。

「うわっ、三木先輩!?」

 ノックもなく、その上、音も立てずに現れるのだから、ただ者ではない。いつの間にか背後に立たれていた。

「って言うか、タイピーずるいなぁ」

 一樹は大輝の頭に顎を乗せる。背後に立たれただけでも怖いと言うのに、首でも絞められそうで怖い。

「その、タイピーは勘弁してほしいんですが……」

「タイピーのくせに生意気だぞっ!」

 一樹はポカスカと殴ってくるが、まるで肩たたきをされているようだった。

 そして、偽装とは言え、恋人が攻撃されているのに、星羅は見向きもしない。

「……で、何がずるいんですか?」

「何で楽しそうにハクシャクと遊んでるのさ」

 振り返って問えば、ぷぅっと一樹が頬を膨らませる。

 ハクシャク、つまりノスフェラトゥと大輝がじゃれているのが気に食わないようだ。なぜ、ハクシャクなのかと言えば「白い毛が何となく伯爵のアレっぽいから」とのことだった。アレとは何なのか大輝にもよくわからないが、深くは聞かない方が平和だとわかっていた。

「何で、って言われても……」

 勝手に寄ってくる上に手持ちぶさたで遊んでいただけだ。不思議なことは何もないはずだ。

「その魔法の猫じゃらしを先輩にもお貸しなさい!」

 ささっ、と一樹が手を出す。

「魔法って……普通にここにあったやつですけど」

 ここには猫用のグッズが多数ある。全て星羅と一樹がノスフェラトゥと遊ぶために買い揃えたもののようだった。

 しかし、ただのガラクタと化している。ノスフェラトゥにとって星羅はパートナーであって飼い主ではないようだった。

 大輝から猫じゃらしを奪い取った一樹は本当に魔法がかかっていると信じているのかご機嫌で振り始める。

 専門家の星羅でさえ、その魔法は使えなかったというのに。


「くっ……」

 一樹はガックリとうなだれ、猫じゃらしを落とす。

 やはりと言うべきか、ノスフェラトゥはじゃれなかった。それどころか、一樹を馬鹿にするような態度まで取ったのだ。

 怖い者知らずの猫である。

「そんなに気を落とさなくても……」

 大輝自身、なぜ、こんなに懐かれているのかわからないほどだ。

 すると、そのノスフェラトゥは違う猫じゃらしをくわえて持ってくる。これで遊んでと言っているようだ。

 一樹のじと目も怖いが、ノスフェラトゥに引っかかれるのも困る。大輝はその猫じゃらしを手にした。

 遊びに飽きたのではと思っていたが、先ほど以上に興奮したノスフェラトゥを見ていると、帰る頃にはヘトヘトになっているのではないかと感じる。

「なぜだーっ!」

 頭を抱えて大袈裟に叫ぶ一樹も不安の一つだった。

 彼女は一体何をしにきたのだろうか。生徒会長とは暇なものなのだろうか。

「星羅、ちょっと」

 今度は猫じゃらしを奪おうとせず、一樹は星羅を呼び寄せる。

 それから猫じゃらしを彼女に渡すように指示した。

 星羅が猫じゃらしを手にするとノスフェラトゥが飛びかかる。だが、猫じゃらしには見向きもせず、星羅の手を狙う。慌てて星羅がじゃらしを投げ、大輝がキャッチする。また興奮しきった様子でノスフェラトゥが向かってくる。

「なぜなんだーっ!!」

「……なぜかしら」

 この世の終わりのように叫ぶ一樹と手をさする星羅、二人は完全にコミュニケーションに失敗している。下に見られているのかもしれない。

「あたしも星羅も首輪付けてあげようとしたら激しく抵抗されたし、何でかなぁ……」

 フラフラと一樹は椅子に座ってお菓子に手を伸ばす。

「でも、校長先生とは遊んでいたわ」

 星羅もいつの間にか作業を終えていたようだ。道具を机の中に押し込み、お茶の用意を始めた。

「えっ……校長先生、来るの?」

 初耳である。

「ここを保健室分室なんてものにしたのが誰だと思ってるのさ?」

「てっきり、会長かと」

 一樹の得意技の横暴だと思っていたが、そこまでは言えない。

「違う違う。あたしにとって星羅は急に引っ越してきたお隣さんなんだってば。生徒会もビックリビックリ。いきなり隣に保健室の出張所的なの作るとか言い出すんだから寝耳に水! いや、本当にあの人が何を考えてるかだけは全然わかんないよ!」

 一樹は手を振って否定する。自分の部屋のように居座っている時点で説得力がないのだが。生徒会室の隣にあるからこそ延長のように思えてしまう。

「コンセプトは心の保健室なんだって」

 それで保健室分室なのかと大輝はようやく納得した。

「あの人、たまにハーブティーを飲みにいらっしゃるわ」

「確実に常連になるよね、あの人。やっぱり、校長ってストレス溜まるのかな?」

 何を言えばいいのか大輝にはわからなかった。校長のことはよくわからない。こうして遊んでいる光景も想像し難かった。

「まさか、ハクシャクって面食い?」

 一樹はノスフェラトゥに目を向けるが、答えが返ってくるはずもなかった。

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