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「何で生徒会長まで……」
昼休み、拓臣の呟きは尤もだと大輝は思った。
星羅を紹介するべく昼食を一緒に食べようと半ば強引に分室に連行したのだ。
朝、自分で会いに行ったからいいと言われたのだが、星羅側の協力者と引き合わせておきたかった。それが、生徒会長三木一樹とは言わないままで。
「何さ何さ、偉大なる共犯者様に向かって」
大きな重を抱え込んで一樹は不機嫌を露わにした。
なぜ、教室にレジャーシートを引いて、遠足気分なのかは聞くべきではないだろう。必要以上に聞かないことが彼女と上手に付き合う秘訣だった。
星羅に至ってはいつも一樹の豪華弁当を分けてもらっているらしく、バイキングの如く自分の皿にとっている。
その向かいで大輝と拓臣は購買で買った弁当を広げていた。
更にはその脇でノスフェラトゥがいかにも高そうなキャットフードを食べている。懐く気はないが、一樹がくれる餌は食べるらしい。
「えっと、俺の親友の羽佐間拓臣です」
「……どうも」
拓臣は緊張しているというよりは警戒心丸だしといった様子だ。彼は星羅に対していい印象を持っていないのだから当然なのかもしれない。
特に今日は朝から機嫌が悪い。
「うむうむ、よろしく頼むぞよ、タクミン」
「何スか、それ」
拓臣は眉間に皺を刻むが、相手は先輩で、それも悪名高き生徒会長である。彼でも強くは言えないようだった。
「仲間にはあだ名を付けよ、ってことで、タイピーとタクミンなのだ!」
不本意ながら大輝もすでにあだ名を付けられていた。勘弁してほしいと言ったのだが、彼女のネーミングセンスは悲惨である。
「あたしのことも好きなように呼ぶがよい!」
フフンと胸を張った一樹は懐の深さをアピールしたいようだが、それが逆に怖いのだ。何せ、彼女は傍若無人で通っている。好きなようにと言いながら、気に食わなければ何が飛んでくるかわからない。
「あたくし、あなたが好きなように呼ばれているのなんて聞いたことないわ」
冷静に言う星羅は空気が読めないようだ。そういった面で彼女に期待はしていないが、一樹は怒るわけでもない。
「星羅、みんなに親しまれるあだ名を考えてくれないかな?」
大輝は身構えた。星羅ならば平然と爆弾を投下しかねない。拓臣も未だに警戒を解いていない。
「会長でいいじゃないの。皆、それが一番だと思っているわ」
「そうかな?」
星羅が一樹を諭す様は二学年差だというのにまるで大人と子供だ。
小学生とその若い母親くらいに見えてしまうほどである。言うまでもないが、母親は星羅の方である。
「あたくしには、三木一樹があらゆるあだ名に文句を付ける未来が見えるわ」
やっぱり、と思わずにはいられなかった。
彼女の場合、運命や未来という言葉を使えば何でも言えるのが羨ましいと大輝は感じる。一樹からの信用もあるからこそ、素直に聞き入れられる。
実際は一樹の性格をわかっていれば誰にでも読めることだろう。尤も、星羅がそこまで考えてやっているのかはわからないが。
「うーん……ミッキーとかミキティとかカズキンとかイッキとかみんなしっくりこないしなぁ……うん、気軽にカイチョーって読んでもらえばいいよね」
一樹は納得したようだ。しかし、すぐ隣にフルネームで呼び捨てにする人物がいることには触れなくていいのかと大輝は疑問に思ってしまう。しかも、彼女にはあだ名が付けられていない。それも気になる。
だが、危うきには近寄らずだ。大輝も学習しないわけではない。
余計なことを言えば後で拓臣に説教されるだろう。
そして、彼は今後このスリリングな昼食に巻き込むなと強く言ってくるだろう。
大輝としても一樹の存在は緊張感そのものだ。どうにか対策を考えるべきだと胸に刻む昼休みであった。