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マーガ  作者:
第五章 魔女の一族
26/30

5-4

 なぜ、今日の帰り道はこんなにも長いのだろうか。家がとても遠く感じられるほど色々なことが起きすぎている。

「そこの少年」

 ふと、呼びかける声に大輝は周囲を見回した。ここも人気がない。

 自分と女性と道端にいる易者以外に姿はない。つまり、易者から自分にかけられた声だと大輝は気付く。

 老年の男、しかし、背筋はしゃんと伸びて、声にも張りがある。

「このまま真っ直ぐお行きなさい」

「も、もしかして……」

 この老人は星羅の祖父なのではないか。大輝は問おうとした。

「真っ直ぐ、立ち止まらず行くのです」

 易者は微笑み、促す。そこには大輝に何も言わせまいとする強さがあった。それを押し切ってまで問えば、罰が当たってしまうような穏やかな威圧感だった。


 星羅の兄に父に祖父、一気に出会ってしまったようだ。

 二度あることは三度ある。本当にそうだった。

 これは一体どういうことなのだろうか。大輝は首を傾げる。気付けば遠回りをしている。易者の言う通りに真っ直ぐ進んでしまった。どこへ行けばいいのかもわからないままに何かの導きを信じるかのように。

 彼女の家族はこんなにも近くにいる。いつでも会える距離にいる。その事実が大輝を複雑な気持ちにさせる。

 不意に大輝は顔を上げる。目の前には女性がいた。店の看板をしまおうとしているところだ。

 母という文字がやけに目に付く看板だ。こんな店があったとは知らなかった。元々、大樹はそういったことには疎い。

「あら、迷える羊ちゃん。今日はもう締めるところなんだけど……」

 大輝の姿を見て、彼女は穏やかに笑った。美しい女性だ。星羅にも似ている気がする。

「お、お母さんですよね?」

 思わず問いかけていた。慌てたせいで肝心なところが抜けている。

「私はみんなの母よ」

 ふわりと彼女は微笑んで大輝の目を覗き見た。それは星羅と重なる。

「徒花星羅さんのお母さん、ですよね?」

 一度、落ち着いて呼吸をして問い直す。

 彼女は《母》と呼ばれる占い師らしい。それはつまり星羅の母だということだ。疑う気持ちは微塵もなかった。

「ここに来るまでに、お兄さん、お父さん、それから、多分お祖父さんに会いました」

 星羅の祖父に関しては明確な答えはなかった。

 しかしながら、星羅や睦月が語る情報と全てが一致している。易者は真っ直ぐ進めと言った。そして、今、《母》に会っている。

 これは偶然ではなく、必然だと確信している。

「お入り、坊や。お茶飲んでいきなさいよ」

「《ママ》と同じですね。俺のこと、坊やって」

「だって、夫婦だもの」

 ふふっ、と彼女は笑う。ごく自然に、美しく。大樹の言葉が意味するところをわかっている。

 星羅だけが笑わない。その事実を大輝は思い知らされる。

 教えてあげたい。引き合わせてあげたい。けれど、彼女はそれを望むのだろうか。

 皆、穏やかに生きているのに、彼女だけがいつも張りつめているのだと思えて仕方がなかった。

 会いたいに決まっている。だが、罪を背負い込んで感情を押し殺しているように見えるのだ。


 徒花美智子(みちこ)、それが母の名前だと言う。

 お母さんや母と呼ぶことを拒否された大輝は美智子さんと呼ぶしかなかった。

「星羅さんは自分のせいで一家が離散したと思っています」

「それが真実だと言ったら、坊やはどうするの?」

 星羅はそれが紛れもない事実だと本気で思っているだろう。

「でも、そうじゃないですよね?」

「肝が据わった坊やね。でもね、残念ながら、物事の捉え方として全くの間違いではないのよ」

「睦月さんから事情は聞いています」

 たとえ、彼から話を聞かなかったとしても、大輝が思うことは一つだ。

 星羅は悪くない。自分だけは、と言えば一樹が激怒するかもしれないが、とにかく信じていたかった。

「私達の欲がこの事態を招いた。それは事実、けれども、星羅がいなければ、そうならなかったと思わない?」

「それは、すり替えではないですか?」

 大輝はじっと美智子を見た。彼女がいなければ、などと言うことは考えたくない。

「私達は自分の罪を認めている。でも、必ずしもそうだと思ってくれるわけじゃないでしょう?」

 そっと目を伏せ、美智子は語る。確かに誰もが同じ考え方をするわけではない。

「あなたは真っ直ぐな目をしてる。星羅をどこまでも信じてるのね」

「俺を試しているんですか?」

 先程からそんな気がしている。皐もまたそうだった。

「私にはあなたを試す必要がある。そして、あなたはあたしに試される必要がある。どうかしら?」

「及第点は貰えますか?」

 図々しいと自分でも思いながら大輝は聞いてみた。

 彼女の母親に認められること、それを求めていた。

「まだまだね。テストが終わっていないのに、どうやって点を取るの?」

 クスクスと彼女が笑うが、言っていることがわからないわけではない。

 まだ試されている。どこが終了なのかわからない。そもそも、本当に始まっているのだろうか。

「俺はもう一度家族として集まってほしいと思っています」

「全ては星の導きのままに――あなたがどうこうすることではない、そういうことよ」

 神秘的な笑みは彼女も《魔女》なのだと大輝に思い知らせるには十分だった。

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