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マーガ  作者:
第四章 魔女と悪女のお茶会
18/30

4-2

「あなたはどういう占いをするの?」

 どうにか茉希は落ち着いたようだった。疑いがないとは言わないだろうが、今は占い師としての彼女に興味を持っている。

 こんな形でなければ、二人がこれほどまでに険悪になることはなかったかもしれない。茉希は星羅が世話になっている占いカフェに行きたいとずっと言っていたのだから。

「タロットや夢占い、水晶を使うこともあるけれど……占いには興味があって?」

「え、ええ、大好き。朝の占いのランキングは欠かさずに見てるの」

 大輝には星羅の態度が軟化したように思えた。茉希も同様だ。

 しかしながら、茉希の胸の内にあるのは同情だろう。何不自由なく生きてきた彼女にとって星羅のような境遇の人間は憐れみの対象でしかない。

 可哀想な人間、そう思えば優しくもなる。けれども、それは慈悲ではない。見下して快感を得るためだ。

「なら、占って差し上げましょうか」

「本当? 嬉しい!」

 彼女は自分を作るのが上手だと大輝は改めて思い知る。見透かされていようと関係ないという厚かましさが発揮されている。自分の心の広さを見せようとでも言うのか、その裏にただで占ってもらえるという意図を隠したままで。

 そんな様に星羅は目を細めていた。

「既に見えているものを黙っているのは、とっても大変なことなのよ。ふふふふふっ」

 そんな風に笑うのは悪い予兆だと感じる。今まで、そんな笑みを見たことがなかった。

 彼女は何かを良からぬ物を見ている。大輝でもわかる。

 聞かせてはいけない。言わせてはいけない。直感が告げているのに、女二人の前で大輝はあまりに無力だった。

「たくさんの棘があなたを突き刺そうとしているのが見えるわ。どれも小さな悪意、数えるのは面倒だけど、あなたは心当たりがあるんじゃなくて?」

 その様は容易に想像できた。

「な、ないわ! 失礼なこと言わないで!」

 嘘だ。大輝は心の中で断言する。

 それは拓臣も知っていることであり、おそらく一樹も知っている。親の前では猫を被り、弱者は踏み付ける。結局のところ、彼女の親も利益しか考えないような人間だ。

「礼を欠いてるのは、あなたの方だわ。不躾な視線にあたくしが気付かなかったとでも思って?」

 ずっと不快な思いをしていたから彼女は傲慢な態度を取っていたのだろうか。

「因果応報、自業自得、悪因悪果、人を呪わば穴二つ……あなたの悪意が全部返ってくるわ。当然の報いよ。覚悟なさい」

「本当に失礼な人!」

「あたくしは見た通りを言っているだけ」

 星羅には彼女が何であろうと関係ないだろう。彼女の家族に手を出そうと考えても既に一家離散している。ダメージを与えることはできないだろう。

「お、落ち着いて! 徒花さんはアドバイスをくれるよ」

 大輝は何とか宥めようとする。星羅は魔女であって、厳密には占い師ではない。

「あたくし、地獄に突き落とすのが役目ではないの。人を、一人でも多く救いたいと思っているのよ」

「そ、それで、どうすればいいのかな?」

 すっかり不機嫌が顔に張り付いた茉希の代わりに大輝は聞いた。

「おかしいわね、いつもは助言ができるのだけど……何も見えないわ」

 その言葉は演技がかっている。初めから救済の手段など見えていなかったのだろう。おそらく救いようがない。先ほどの言葉通り彼女は報いを必ず受けなければならないということになるのだろう。

 星羅でも何も言えず、救えない人間がいる。考えれば当然のことかもしれないが、今まで行き当たらなかったことだった。星羅は万能ではない。

 けれど、罪を償った先の救いもあるのかもしれない。もしも、茉希にも救われる道があるのならば、星羅にも救われて欲しいと思わずにはいられなかった。

「でも、これだけは言える。悪いお友達と遊ぶのはおやめなさい。悪いお友達というのはボーイフレンドのことね。かなり貢がせてると言うのかしら? 体を安売りするものじゃない。あなた、灰岡大輝と結婚してもそういう関係を続けるおつもりね。だって、灰岡大輝はあなたには逆らえないもの。親の権力を翳して、家を盾にして、そういう風に虐げてきた。卑劣なやり口ね」

 本日最大の威力を持つ爆弾が投下されたのがわかった。

 とんでもない内容をよくもつらつらと噛まずに言えるものだ。

 拓臣に散々言われ、大輝も茉希について想像していたことでもあるが、平静でいるのは難しい。

 こんなところでその化けの皮を剥がす必要があるのだろうか。

「このインチキ占い師!」

 茉希の手が水の入ったコップに手が伸びる。氷もほとんど溶け、嵩を増した中身が星羅に浴びせられる。

 顔に命中し、滴って胸元を濡らしていく。周囲は騒然とし始める。

「だから、あたくしは魔女だと言っているじゃないの。占い師と言ったことなんて一度もないわ」

 ハンカチで顔を拭いながら、星羅は茉希を見た。明らかな軽蔑、先程茉希が向けていたように見下す視線だ。

「私に恥をかかせたわね!」

 もう一度、今度はアイスコーヒーが星羅に浴びせかけられる。

 ハンカチが使い物にならなくなり、星羅は茶褐色の液体をボタボタと滴らせている。

「あんたは絶対に許さない!」

「茉希さん!」

 捨て台詞を残して、茉希は去って行く。

 大輝はどうしたらいいかわからなくなる。星羅に貸してやれるハンカチもタオルもなかった。

 店員に頼もうとしたところで、星羅と目が合う。

「あなたは彼女を追いなさい。ここの支払いはあたくしが責任を持ってしておくから、早く行くのよ」

「ごめん!」

 それは逃げなのかもしれない。けれど、そうするべきだとわかっていた。ここに残れば取り返しの付かないことになるかもしれない。彼女もそのことをわかっているだろう。だから、強い言葉で大輝を送り出した。

 自分のせいで星羅は水とコーヒーを浴びる羽目になったが、そのことについては後にするしかない。

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