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マーガ  作者:
第二章 魔女は何でも知っていない
11/30

2-5

 昼休み、大輝はガックリとうなだれていた。

 昼食が全く喉を通らない。一人だけ葬式の気分である。

「どうしたの、タイピー。今日で世界が終わるみたいな顔して」

 ステーキを頬張る一樹は心配しているような口振りで、明らかに面白がっている。

「今日で終わって欲しい気分ですよ」

 明日がこなければいいのに。そう思わざるを得ない。

「こいつ、明日デートなんスよ。将来の奥さんと」

 理由を知る拓臣が説明する。

「あーあーあーご愁傷様」

 チーン、と一樹が手を合わせる。

「聞きたいことがあるって言われて、今からガタガタブルブル……」

 昨日の電話の内容を思い返せばゾッとする。そもそもデートだけでも憂鬱なのに、声だけの彼女は怒っているように聞こえた。

「お前、言わなかったんだな? この魔女っ子のこと」

 拓臣に言われたことを聞かなかった形だ。今は申し訳なく思っている。

「事後でいいと思って。まさか、こんなに早くバレるとは……」

 次のデートで言えばいいだろうと本気で思っていた。彼女は許してくれるだろうと。だが、それも不安になってきた。

 彼女ははっきりとは言わなかったのだが、噂と言っていたのだから間違いなくこのことだろう。

 以前にも噂に聞いたことを弁明させられた。女子に言い寄られていることから始まり、それを拒んでいることから生まれた《ゲイ説》や《不倫説》など、ことあるごとに。今すぐにでも婚約を発表したいと迫られたこともある。

 自分のことながら懲りない男なのかもしれないと思ってしまう。拓臣の忠告もあった。こうなることもわかっていたはずだ。

 だが、事前に言えばそんなことは駄目だと反対されただろう。

 大輝にとって星羅は落ち着く存在だ。そして、一樹も始めは怖かったが、本当は面白い人間だということがわかった。

 こうして拓臣を巻き込んで昼食を共にするのは楽しい。それがなくなってしまえば、何もなくなってしまうような気がしている。

「女の情報網を甘く見る男は女に泣くのよ。ここにいる三木一樹は情報を駆使して数々の男を号泣させてきたのだから」

 今日も一樹の豪華弁当バイキングを楽しむ星羅は淡々と言う。

 まさか彼女がそんなことを言うとは思わなかったが、彼女の場合は一般論というよりも一樹のことだった。

 一樹の場合、女の情報網というより何か組織めいた影を感じてしまう。何せ、彼女には生徒会役員という名の下僕達がいる。

「じゃあ、今日はみんなでタイピーのお別れ会しようよ!」

「お別れって、俺、死亡決定ですか……?」

「最後の晩餐にあたしのお昼分けてあげるよっ!」

 ずいっと一樹が重を突き出しくるがもうほとんど残ってはいなかった。これは嫌がらせに違いないと大輝は察する。

 他人の不幸は蜜の味、そういうことだ。

「……デートがうまくいくおまじないとかってあるかな?」

 縁は切れないと言われたが、逆の発想はどうだろうかと大輝なりに考えてみた。

「うまくいって、よろしいの?」

 星羅は首を傾げている。大輝の思考が読めないのだろう。

「効きすぎて、すっかり結婚を誓い合う可能性あるよ?」

 一樹はニヤッと笑う。内情を知っているだけに悪質である。

「な、な、な、な、なんでそうなっちゃうんですかっ! こ、困ります! ちょー困りますから!」

「じょーだん、じょーだんっ、星羅の魔術はそこまで強くないもんねっ! あはははははっ! タイピーおもしろーっ!」

 床を叩いての爆笑である。

 自分は玩具にされているのではないか。

 不安になる大輝の膝をぽんと叩く手があり、思わず振り向く。だが、拓臣だと思ったのに彼とは反対で、そこにいたのは右の前足を乗せるノスフェラトゥだった。慰めてくれているつもりなのだろうか。

「あんまりからかわないでやって下さいっス」

 溜息混じりに言う彼こそ、真の親友だと思ったが、その顔は明らかに笑いを堪えている。

 結局、皆、自分にはない現実を楽しんでいるに違いないのだ。

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