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マーガ  作者:
プロローグ
1/30

前提は不幸

 この学園には魔女がいる。

 全校生徒がそれを知っているのは、校長公認の下、様々な特例によってあまりにも厚かましく存在するからだろう。


 徒花星羅(あだばなせいら)、今年入学したばかりの高校一年生、十五歳だ。

 彼女は魔女であって、魔術師ではあるが、魔法使いではなく、ましてや魔法少女でもない。見た目に反して白魔術が専門であって黒魔術には決して手を出さないと言う。

 魔女の分類など彼らにはわからない。アニメやゲームの世界のような現実味のない言葉にしか聞こえないはずだ。

 だが、箒に跨って空を飛んだり、釜で怪しい色の液体を煮たり、杖を持っていたりしていることもない。しわくちゃの顔でもなければ、鉤鼻でもない。三角の帽子を被っていなければ、マントを羽織っているわけでもない。

 誰もが想像するような魔女と彼女の言う魔女は異なっている。

 風貌は決して普通だとは言い切れないところもあるのだが、美少女と言ってまず問題はないだろう。

 眉のあたりで一直線に切り揃えられた前髪とサイドを顎の辺りで切ったいわゆる姫カットで、いつも黒いフードのついたケープをしている。これが帽子とマントの代わりだと言えなくもない。

 成績は極めて優秀、入学式で新入生代表挨拶を頼まれるほどで、先日の中間テストでもトップに名を連ねていた。

 頭脳明晰、容姿端麗、本人にそれを鼻にかけた様子はないが、あまりに異質なために敬遠されがちである。


 問題は彼女自身よりも、連れている黒猫の方なのかもしれない。

 胸元に白い毛があり、厳密には真っ黒ではないその猫は水色と金ともとれる茶色のオッドアイを持ち、実に神秘的だ。

 だが、このノスフェラトゥが本当に不気味なのだ。

 そもそも、ノスフェラトゥ(吸血鬼の総称)という名前が不気味であって、普段はほとんど鳴かないが、目を合わせて鳴かれたら不幸が訪れるという噂だ。

 実際、興味本位でノスフェラトゥに近付き、悪戯をしようとした人間は自身や身内に悪いことが起きたと言っている。

 偶然ともとれるが、それについては星羅自身が証明しているとも言える。

 そもそも、普通ならば校舎の中に猫がいるはずなどないのだが、それが許されるには深い理由があるのだ。

 未だに嫌がる教師もいるが、特例として認められてしまっている。

 初めは誰もが校内に猫などいてはならないとノスフェラトゥを追い出そうと躍起になったのだ。

 しかし、暴れるノスフェラトゥを無理矢理学校の外に出したその日、星羅は大怪我をしそうになった。

 廊下を歩いていたところ、ボールが飛んできて窓ガラスが割れ、彼女はそれを浴びる形になった。

 その一度だけではない。廊下でふざけていた生徒が飛ばした上履きで蛍光灯が割れ、真下には彼女がいたが、彼女はフードのおかげで無事だったと言える。

 花瓶が落ちてきたことや階段で人とぶつかって落ちそうになったこともある。

 そういうことがノスフェラトゥを追い出した時に限って起こるのだ。ノスフェラトゥが意味ありげに鳴いた時に。

 このまま校内で事故が頻繁に起こるのは学園側としては困ることだ。それは猫が校内にいることよりも問題だと判断された。結局、ノスフェラトゥは特別に校舎に入ってもいいことになった。

 ノスフェラトゥ自体は悪戯をするわけでもなく、気ままに校内を歩き回る程度の大人しい猫で、校長が餌をやっている姿が何人もの生徒に目撃されているという話もある。

 今やノスフェラトゥも生徒だというのが学園七不思議や都市伝説のように囁かれているが、本当に学生証を持っているというのが冗談みたいな本当の話だ。入学テストを受けて合格したという噂もあるが、真実は定かではない。

 だが、そんなことはどうだっていいのだ。



 その魔女、徒花星羅が今、彼の目の前にいる。

 こうして近くで見ると彼女の佇まいは凛としている。大きな目には不安も期待もない。人形のようにも見える。

 そして、彼は口を開いた。

「俺と付き合ってほしい。不幸を前提に」

 それが始まりの言葉だった。

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