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祈りを繋ぐもの  作者: 和穂ゆう
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神代の文書 タマカエシのフミ ~後半~

第六章 時代の転換点



「タマカエシ」のフミにまつわる物語は、ここから新たな展開を見せることになる。

時は流れ、ウカヤフキアハセス天皇の御代のこと。カクヤマ(アスカヲキミ)の臣であるナガスネという男がいた。彼の心には、強烈な欲望が燃え上がっていた—「タマカエシ」のフミへの、抑えきれないほどの憧憬が。

なぜナガスネがそれほどまでにこのフミを求めるのか?それには深い理由があった。十二代天皇のウカヤフキアハセスにお世継ぎ子がまだ無かった時、オシクモがこの神秘的な「タマカエシ」のフミを用いて「ヨツキヤシロ」にて子種を得ることを祈ったという話を聞いたからだった。

「もしあのフミがあれば、我が主君にも...」

ナガスネの心は、野心と期待で燃え上がっていた。

だが、彼の願いは叶うことはなかった。「タマカエシ」のフミは、そう簡単に手に入るものではなかったのだ。

オシクモが逝去した後、世継ぎのアマノタネコは貴重な「タマカエシ」のフミをミカサヤシロ(春日大社)に厳重に納めた。そして自らは重要な使命を帯びて九州へと旅立った—若いタケヒト(後の神武天皇)キミの守り役として付き従うためである。

その頃、十二代天皇のウカヤフキアハセスが九州での農業指導の行幸中に「トヨケノリ」を決意されたという重大な知らせが届いていた。アマノタネコは九州のアヒラでウカヤフキアハセス天皇の喪を心を込めて弔った後、ミヤサキ(宮崎神宮)で政治を執りながら次の指示を待った。




第七章 盗写事件の発覚



アマノタネコの不在—それはナガスネヒコにとって千載一遇の機会だった。

「今しかない...」

長年の鬱屈した想いと野心が、ついに彼を犯罪へと駆り立てた。ナガスネヒコは密かにミカサの倉に忍び込み、厳重に保管されていた「タマカエシ」のフミを盗み写したのである。

だが、どんなに巧妙に行ったつもりでも、神聖な場所での犯行が見過ごされるはずはなかった。倉の守り人は異変に気づき、震えながらも急いで九州のタネコに報告した。

知らせを受けたタネコは、まるで雷に打たれたような衝撃を受けた。

「まさか...そんなことが」

血の気が引く思いで、彼は即座にキミのタケヒト(後の神武天皇)に事の次第を報告した。

タケヒトもまた、この前代未聞の事態に深い憂慮を抱いた。もしかすると、これは都からの正式な許可を得た行為なのかもしれない。そう考えた彼は、慎重に都にいるヰツセに確認を求めた。

勅使を遣わして詳しく尋ねたところ、ヰツセのミコからは明確な返答があった—自分は何ら関与もしていない、と。

この報告を聞いた時、タケヒトの表情は厳しいものとなった。となると、ナガスネヒコの行為は紛れもない犯罪である。神聖な文書の盗写という、決して許されない重大な罪を問われなくてはならない。

あるいは、ナガスネの主君であるニキハヤヒ(アスカミヤの世継ぎ)が、部下の行為に対してしかるべき処置を取らなければならない。

この故に、事態は一気に険悪な雰囲気を帯び始めた。もしかすると、戦になるかもしれない—そんな不穏な予感が、関係者全員の心を重く覆った。




第八章 戦雲立ち込める



ナガスネヒコの心は、もはや後戻りできないところまで来ていた。タケヒトからの厳しい問い合わせを受けた時、彼の心には激しい怒りと逆恨みの炎が燃え上がった。

「自分は正当に『タマカエシ』のフミを求めても得られなかったのに、なぜこのような扱いを受けなければならないのか」

長年の鬱積した不満と屈辱感が、彼をますます頑なにさせた。事態はいよいよ拗れてゆく。

一方、ナガスネヒコの主君であるニキハヤヒは、優柔不断にも何ら処罰を下すことができずにいた。この煮え切らない態度が、事態をさらに悪化させることになった。

ついに堪忍袋の緒が切れたナガスネヒコは、恐るべき決断を下した。ヰツセのミコに対して軍隊を向けたのである。

彼はヤマサキ(京都府と大阪府の境)という戦略的要地に軍を布陣し、船の航行を完全に遮断した。この行為は、まさに国家への反逆に等しかった。

この深刻な事態を受けて、ハラミのミコ(ムメヒトの子孫)は苦渋の決断を下した。関東地方と東北地方からの租税の穀物の上納を一時停止することにしたのである。これは、戦乱の拡大を防ぐための、やむを得ない措置だった。




第九章 朝廷の混乱



関東と東北からの租税の穀物が途絶えた都では、深刻な危機が始まっていた。ヰツセのミコは日に日に追い詰められていく状況に、深い絶望感を抱いていた。

「これでは、通常の朝廷運営など到底不可能だ...」

宮中を運営する代理の重責を担っていた彼は、もはやどうして良いか分からなくなった。毎日のように続く会議でも、有効な解決策は見つからない。食料の備蓄は日々減り続け、役人たちの間にも不安の色が広がっていた。

ついに万策尽きたヰツセのミコは、最後の望みを託して九州ミヤサキのタケヒトの元へと向かった。その心境は、まさに藁にもすがる思いだった。

都に残された朝廷は、機能を大幅に縮小せざるを得なくなった。この重大な局面で、右大臣ツルギのトミのクシミカタマがその重責を引き受けることとなった。彼はネのクニをも兼ねて治めるという、前例のない重い任務を背負うことになった。




第十章 新たな体制



都の朝廷の機能縮小と、九州ミヤサキでのタケヒトの臨時朝廷設置—この歴史的な政治体制の変化に伴い、新たな人事も動き出した。

オオタ(コモリの子供)が、ツクシ(九州)のタケヒトのもとに副執政官として派遣されることになった。


 かくして、一冊の神秘的な文書「タマカエシのフミ」をめぐって始まった争いは、古代日本全体を揺るがす大きな政治的変革の嵐となった。

アマノコヤネが死してなお愛弟子に授けたその古き知恵の書は、今や国を二分する争いの火種となり、やがて来る壮大な戦乱の序章を告げていた。

老賢者が遺した神聖なる教えが、果たして国に平和と統一をもたらすのか、それとも更なる混乱と分裂を招くのか。

歴史の大きなうねりの中で、人々の運命は激しく揺れ動いていた。戦雲は次第に濃さを増し、新たな時代の夜明けが近づいているのを、誰もが肌で感じていた。遠い空の彼方から、やがて来る決戦の太鼓の音が、かすかに聞こえてくるようだった。

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