第八話 お試しサービス
喋ることもままならないまー君が出来ることはただ一つ、うめき声をあげることだけなのだ。それも、集中していなければ聞き取れないほど小さなものであって、呼吸をしているだけだと勘違いされても仕方ないものであった。
だが、その小さな声を聞き逃すことがないのが史上最高ランクと評価されるイザーちゃんの凄いところなのかもしれない。
「あれれ、まだ何もしてないのに、どうしちゃったのかな? もしかして、最後の一線を越えられないって聞いて、いろいろと想像しちゃったのかな?」
まー君の変化を見つけることが出来なかったうまなちゃんだったが、イザーちゃんが急にあおりだしたところを見て察していた。この辺の嗅覚が優れているのでうまなちゃんはイザーちゃんに次ぐ実力者と言われているゆえんなのかもしれない。
「私たちはまだ何もしてないんだけど、なんだかまー君は苦しそうだね。どうしても言いたいことがあるって言うんだったら、聞いてあげないこともないんだけどな。何かしてほしいことがあるんだったら、素直に言ってちょうだい」
「最後の一線は越えられないんだけど、そこまでいかないんだったら大丈夫だよ。そこまで行く前にまー君がいっちゃう可能性もあるんだけど、それは私たちのせいじゃないからね」
「我慢できないまー君が悪いんだよ。まー君は立派な男の子なんだから、最後まで我慢できなきゃダメでしょ」
今までうまなちゃんとイザーちゃんの目を見ることが出来ていなかったまー君ではあったが、今の状況を考えると恥ずかしがっていられるはずがない。体を動かすことも言葉を発することも出来ない状況にあるわけなので、今はしっかりと相手の目を見つめて思いを伝えることしかできないのだ。
それなのに、まー君の気持ちは二人に正確に届くことはなかった。いや、もしかしたら正確に届いてはいるのに二人がそれに答えてくれていないだけなのかもしれない。察しのいい二人であるからこそ、その可能性が十分に考えられるのである。
だからこそ、まー君は自分が置かれている今の状況に絶望しかけているのだ。
それでも、軽くいじめられるというのは案外楽しいものだと感じていた。
今まで何度も攻撃をされてきた人生ではあったが、今みたいに拘束されている事が無かったため不自由の中で何か活路を見出そうとしているのである。そこで見出した活路は、相手に抵抗せずにちゃんと受け入れるという事だった。
「魔王だって一人で倒せるくらい強いまー君なのに、戦闘員じゃない私たちの魔法に簡単にかかっちゃうなんてどうしちゃったのかな?」
「契約書く書かれているからって、それを守る必要はないんだけどね。今日はまだ仮契約の段階なんだけれど、もしかして……もう、期待しちゃってたりするのかな?」
「凄く強い魔法使いであるまー君は私たちの魔法に簡単にかかっちゃいました」
「凄く強い格闘家でもあるまー君は私たちが体の上に乗っかっちゃっても抵抗できませんでした」
「この世のほとんどの事象を知るまー君はこれから自分がどうされるのか考えているのでした」
「想像力も創造力も豊かなまー君はあんなことやこんなことを考えただけで、幸せにたどり着いてしまいましたとさ」
まー君を挟むような形でうまなちゃんとイザーちゃんも横になり、それぞれの足をまー君の足と絡ませていた。
身動きが取れないまー君はされるがままの状況であるからこそ、固く目を閉じながら触れられている個所に全神経を集中させていた。二人の足が自分の足に触れ、何度も何度も撫でるように往復しているのを感じ、漏れる吐息が徐々に荒くなっていった。普通の人出は感じられないような変化ではあったが、うまなちゃんとイザーちゃんは敏感にそれを感じ取っており、まー君が触られて嬉しそうな反応を示すところを重点的に太ももで触っていた。
このままでは限界を迎えてしまうと思ったまー君は思わず目を開けて二人の行動を止めてもらおうと思ったのだが、目を開けた瞬間にバッチリと目が合ってしまってしまった。
終焉とは突然訪れるものであり、今回まー君が体験してしまった出来事は歴史には残らないものの三人の記憶からは一生消えることがないものになったと言えよう。少なくとも、まー君は今回の経験を次の人生でも忘れることはない。
「なんか、ごめんね。まー君にはちょっと刺激が強すぎたかな?」
「そんなことないです。ちょっと驚いただけで」
「でもさ、まー君が鈍い人じゃなくて良かったって思うな。あんまり時間をかけちゃうとどうなんだろうってこっちも考えちゃうからね」
「そうそう、まー君ってぱっと見わかりにくいなって思ってたのに、ちゃんと反応は素直な感じだったもんね。気持ちよさそうな顔、とっても良かったよ」
「……。はい」
本契約前のお試し期間という感じで終わった出来事だったが、まー君は意外と満足していたのかもしれない。
ただ、三人で一緒にシャワーを浴びようかという申し出は断っていた。
なんだか、今は一人でシャワーを浴びていたいという気分だったのかもしれない。




