第十二話 感情のうねり
愛華にから差し出されたマイクを受け取ったまー君。一人一人の顔を確認するかのようにゆっくりと会場全体を見回すと、小さく息を吸ってからゆっくりと細く息を吐いていた。
「皆さんの気持ちはわかりました。誰だってうまなちゃんとイザーちゃんの絡みを見たいですよね?」
その問いかけにこたえるかのように会場のいたるところから拍手が起こった。
拍手の音が大きくなる前に、まー君は人差し指を立てて口に当てて静かにするように支持をした。
それを見た観衆はいっせいに拍手を止め、次の言葉を待っていた。
急に訪れた完全なる静寂。誰もがまー君の言葉を待っていた。息をのむことさえせずに、ただただ黙って言葉を待っていた。
「多くの思いを、強い気持ちを伝えてくれてありがとうございます。この会場にいる皆さんはもちろん、これを遠くから見ている皆さんの気持ちも伝わってきました。これは本当に凄い事だと思います。もちろん、うまなちゃんとイザーちゃんがどんな絡みを見せてくれるのかという期待もあると思いますが、世界中の気持ちが一つになったと感じられた素晴らしい出来事です」
誰もが思った。まー君は気持ちを入れ替えて全世界に向けてうまなちゃんとイザーちゃんの絡みを後悔してくれるものだと。
司会の愛華は確認のために、まー君の隣に立って今一度、問いかけた。
「皆さんの思いはまー君に伝わったという認識でよろしいですか?」
「ああ、皆が思う気持ちは今までに感じたことがないくらい強く伝わってきたよ。うまなちゃんとイザーちゃんと、伝説とまで言われるほどに評価されているサキュバスとプレイしたいのにプレイすることが出来ないというジレンマがあるからこそ、そんな二人の伝説的なサキュバスの濃厚な絡みを見たいという強い気持ちが俺には伝わってきている」
「この会場にいる皆さんだけではなく、この会場に来ることが出来ずモニターの前で見ている皆さんも同じ思いだと思いますが、それについてはどう感じていますか?」
「そうだね。最初は俺に対する負の感情が向けられていたと思うんだが、途中からそれが期待感に変化したという事は感じたよ。同じ思いが重なった時、奇跡は起きるのだと思い出すことが出来たよ。俺がまだ今みたいに凄い力を持っていなかったときに魔王に負けそうになったことがあったんだ。でも、その時も今みたいに多くの人の思いが俺に届いてどうにかなったのさ。その時は俺に対して応援してくれていたんだと思うけど、さっきのともそんなに変わらないんじゃないかなって感じたよ」
会場から自然と起こった拍手はバラバラに始まったものだったが、最後にはすべてが重なって大きな音になっていた。鳴りやまない拍手にこたえるようにまー君は観衆に向かって手を振り、手を振られた観衆はそれにこたえるかのようにより大きな拍手を送り続けていた。
良くないことが起きるのではないかと杞憂していた零楼館乳首郎はほっと胸をなでおろしていた。悪い予感が外れたことに安堵して落ち着こうと椅子に腰を下ろしかけた瞬間、まー君の表情に対して奇妙な違和感をほんの少しだけ抱いていた。
今まで見たことがないくらい穏やかな表情を浮かべているまー君が見ているのは観衆と愛華だけ。うまなちゃんとイザーちゃんが近くにいるときにも視線を一度も二人に向けていなかったような気がする。これは零楼館乳首郎の思い込みかもしれないのだが、二人の方体を向けている今もまー君の視線は観衆に向いていて二人の顔を見ている様子はなかった。
あんなに魅力的なサキュバスが二人もいてその顔を一瞬たりとも見ないというのは、極度の恥ずかしがり屋か二人のことを一切考えずに他のことに思いを巡らせていると考えられた。
もちろん、それが悪いことだとは断定することなどできないのだが、それに気付いた零楼館乳首郎は嫌な予感が自分の中で蔓延してしまっているという事で落ち着かなくなってしまった。
和やかな雰囲気の中で愛華のインタビューは続いているのだが、まー君の言葉一つ一つをとっても明確な答えが何一つ返っていないという。認めると言ってしまえば済む話なのだし、さっさと言い切ってほしいと誰もが思っているのに焦らされている。誰もが望む答えを待っている時間が長くなれば長くなるほど喜びは大きくなっていく。
だが、その答えが思っていたものと違っていた場合はどうなるのだろうか?
零楼館乳首郎はそんなはずはないと自分の考えを否定しようとするのだが、考えれば考えるほどポジティブな要素は次々に消えていった。
自分が未成年であるため楽しむことが出来ないコンテンツを彼が許可するのだろうか?
未成年だからサキュバス二人と楽しむことが出来ないので、その未成年の枠から自分を除外するために行動している彼が他人の喜びのために手を貸すのだろうか?
もしかしたら、自分に向けられる負の感情を利用して何かを育てようとしているのではないだろうか?
まー君がいっていた自分が魔王を育てる。魔王を育てるために負の感情を向けられる必要があったとしたら?
零楼館乳首郎は今すぐにでも愛華のインタビューを止めようとしたのだが、その声は届かない。まー君に向けられている拍手が大きすぎて、愛華はイヤホンを外していたのだ。
「かいりちゃんの体力が全快したと合図が出てますね。それでは、最後に聞かせてください。伝説のサキュバスであるイザーちゃんとうまなちゃんの二人の絡みを全世界に向けて公表するのはいつでしょうか?」




