第九話 赤い閃光、その先に
八度目の閃光が意味するもの。
それは、八撃必殺の一撃目がまー君に届いていないという事の表れだった。
だが、八撃必殺の魔法を放った熊ノ沢も何が起こったのか気付いておらず、魔法を受けた側のまー君も何が起きるのかとワクワクしながら待ち続けていた。
当然、観客の中で八撃必殺の魔法が正しく機能していないという事に気付くものは誰一人としていなかったため、いつまでも目の奥に残る残光が観客席と舞台の距離を遠ざけているようにも感じていた。
そんな中でただ一人、愛華だけが八度の閃光に違和感を覚え、どんな意味があるのか考えていた。
そして、いつの間に着替えたのか衣装も変わってちょっとコンビニにでも行ってくるようなラフな格好になっていた。
だが、そのことについて触れるものは誰一人として存在しなかった。
「八撃必殺の魔法をまー君が食らったのに何も起きてないってことになってるんだけど、熊ノ沢はどうしてそうなっているのか説明できるかな?」
「どうしてって言われても俺にもさっぱりわからない。あの魔法が不発に終わるはずがないし、発動したら絶対に相手の命を奪うはずなんだが、いったいどういう事なんだ?」
「やっぱりね。熊ノ沢も何が起こったかわかってないってことだね。逆にさ、まー君は自分がどうして死んでないんだろうって考えているのかな?」
「俺にはその魔法の成り立ちやメカニズムや構成がさっぱりわからないから何とも言えないけど、単純に失敗したとは思えないんだよな。凄く眩しかったのは確かだし、これが死ぬって感覚なのかなって久しぶりに感じたのは良かったと思うよ」
「死ぬのが久しぶりって感覚はわからないけど、私の予想を言ってもいいかな?」
「もちろん。愛華ちゃんの説明が答えに繋がるのかはわからないけど、聞く価値は十分にあると思うよ」
「俺様もどうしてまー君が生きているのか知りたい。たとえそれが間違っていたとしても、次につなげるきっかけにはなると思う」
地声でも十分に声が届いていたと思うのだが、愛華はどこからか持ってきたマイクのスイッチを入れて自分なりの考えを説明しだした。
その考えが間違っているのか正しいのかは誰にも分らなかったのだけれど、その言葉を信じさせるだけの熱意は感じられたのだ。
「魔法には魔力の強度によって階級があるらしいってことを聞いているのだけど、それってあってるのかな?」
愛華の問いかけに対してまー君も熊ノ沢も校庭の意味を込めて頷いていた。前段から間違っていたら考えを変えなくてはいけないと思っていた愛華はいったん落ち着き、続けて誰も思っていなかったことを口にしていた。
「これを聞いて熊ノ沢は気を悪くしちゃうかもしれないけど、怒らないで聞いてね」
「約束は出来ないけど、出来るだけ怒らないようにする。ってか、俺様を怒らせるようなことを言うつもりなのか?」
「私は魔法を使えないって前提で聞いてね。何しろ、私には魔法の強度がどれくらい違うと影響を与えられないかわからないんだから。多分、それがわかったとしても、私には二人の魔力の差が大きいとは思わないんだろうな。だけど、それがわからないからこそ、気付いちゃったことがあるんだよね」
「何か、俺様が言われたくないことを言われるような気がする。怒るなって言われたけど、我慢できないような気がしてきた。なあ、あんたは俺様を傷付けるようなことを言ったりしないよな?」
「ごめんね。魔法を使えない弱い私は今から言うことがどれくらいあなたを傷付けるかわからないの。逆を言えば、この程度の言葉で傷付くはずがないってことだったとしても、それもわからないってことになるのかな」
「ああ、そこまで言われるとダメだな。絶対に俺様は傷付くようなことを言われるぞ。いや、あんたが魔法の強度の話をした時点で薄々感づいてはいたけれど、そうじゃないって必死に思い込んでるんだ。だから、そこから先は何も言わなくていいぞ。俺様はどうしてまー君に魔法が効かなかったのかの答えなんて知りたくないからな。それを知る必要なんてないってことに、俺様は気付いちゃった」
愛華と熊ノ沢のやり取りを聞いた大半の者は愛華が何を言いたいのか察していた。当然、まー君も察しているのでそこに触れないように気を付ける。つまり、何も言わないで黙って見届けるという事を選択したのだ。
「多分なんだけど、いや、結構な確率で正解だと思うんだけどな。言わない方が良いってことなのかな?」
「そうだな。それ以上は言わない方が良いんじゃないかな。俺様としては別にあんたが何を言おうが関係ないと思ってるけど、あんたがこれから言おうとしていることは俺様だけじゃなくて魔力しか取り柄のない魔法生命体に対しても侮辱することになっちゃうんじゃないかなって考えちゃうんだよね。あんただってそれを言うことで自分の評価を下げかねないって思うだろ。な、思ったことをすぐに口にする女って思われるのは損だぜ」
「確かにね。熊ノ沢の言う通りかもしれないね。思ったことを何でもすぐに口に出すのは良くないか。何も考えないバカだと思われちゃうのは私も損だよね。でも、そう思われたとしても、言った方がすっきりするような気がするんだよね」
「ああ、スッキリするかもしれないけど、そんな事でスッキリしなくても他にも楽しいことはいろいろとあるさ。だから、この話は終わりにしような」
「そうだね。何がきっかけで楽しいことが待ってるかわからないもんね。でも、そのきっかけが届かずに不発に終わっちゃうことだってあるのかもしれないから、自分と同じようなステージにいるのか相手のことを見極めた方が良いかもしれないってことだよね」
「その言い方は良くないな。あんたのその言葉で、今まで気付いていなかった人も気付いちゃったかもしれない。本当に良くない言い方だと思うよ」
愛華は思わず喋ってしまったとでも言いたいのか、両手で口を押えて大げさに目を見開いていた。
まー君は、そっと視線を外していた。
熊ノ沢は、何事もなかったかのようにファイティングポーズをとっていた。




