第七話 大日本魔法倶楽部所属でエースの熊ノ沢
天才魔法少女かいりの体力はまだ回復しない。ヒグマチンパンジーで金髪の戦士は善戦することもなく散っていったのだが、次に出てきた男もまた金髪であった。
「俺様は大日本魔法倶楽部所属でエースの熊ノ沢だ。さっきみたいに軟弱な野郎を相手にするのも気の毒だと思うが、今からは俺様が貴様に引導を渡してやるから覚悟してな。ちなみに、俺様の攻撃は八撃必殺だ!!」
「……八撃??」
一撃必殺というモノは非常に多く存在し、まー君の攻撃の九割以上は一撃必殺と呼んでも差し支えないくらいに強力だったりする。
ただ、一撃必殺を自称する多くの技の大半は実際に一撃で相手を殺すことは出来ないものが多いのだが、八撃必殺ともなれば確実に相手を殺せるのだろと思われる。
しかし、八撃も食らわせることが出来たとしたら、魔王が相手だったとしても殺せるのではないかとまー君と観衆は思っていた。
「八回連続で攻撃したら誰だって死んじゃうんじゃないか?」
まー君はいろいろなことを考えて相手を傷付けないようにしようと思っていたのだけれど、さすがに思っていることを我慢することが出来ずに素直に気持ちをぶつけてしまった。ほぼすべての観衆はまー君と敵対する間柄ではあったのだが、この時ばかりはまー君の発言に対して心の中で同調し拍手を送っていた。中には、心の中にとどめておくことが出来ずに本当に拍手を送るものもいた。
「馬鹿、違うって。そういう普通の考えじゃダメだって。世界最強の再挑戦者であるあんたまでその辺にいるゴミ共と同じようなことを言ってほしくなかったな。普通に考えれば俺様が八撃必殺って言うことに何か特別なことがあるんだろうって考えると思うんだけど、最強の再挑戦者であっても所詮はただの人間と変わらないんだな。ちょっと残念だわ」
八撃必殺なんて頭の悪い事を考えている人間に小馬鹿にされたまー君は相手の攻撃を受ける前に殺してやろうかと少しだけ思っていた。
でも、八撃必殺がいったいどのような技でどのような構成になっているのか興味はあった。おそらく、本当に食らってしまえば世界最強の力を手に入れているまー君であっても死んでしまう可能性があるのかもしれないが、そうなったとしても別の世界でやり直せばいいだけの話だし、何だったら弱くてコンテニューを試してみるチャンスかもしれない。
相手に殺されて別の世界に移動するのであれば、サキュバス娼館との契約も不履行とはならずに新しく契約しなおすことが出来る可能性だってある。その時には、ちゃんと成人年齢でやり直すと決めたまー君であった。
「ちょっと待ってもらっていいかな?」
まー君と熊ノ沢が今から戦おうとしている間に割って入ったのは服がボロボロで今にも倒れそうなくらいの大怪我を負った愛華だった。
腕や太ももに巻かれた包帯にはじわりと血が滲み、指は何本か皮膚がめくれて肉が見えていた。
そんな状態を見てしまったまー君と熊ノ沢は一瞬で戦意を失ってしまった。歓声を上げ熱気だっていた観衆も二人と同じように大人しくなっていた。あるものは本当に心配しているのか回復魔法をかけようとしているし、あるものは愛華を止めようと必死に声を張り上げていた。
「そうそう、いいよいいよ。今みたいに落ち着いてくれたらいいから。ね、ちょっと君に聞きたいことがあるからいいかな?」
大怪我を負っている愛華は熊ノ沢の方を向くと、包帯の隙間に挟まれていたメモを取り出してその中身を確認していた。
いったい何が書かれているのか誰にも見えないのだが、大怪我の割には行動も機敏で迷いもないことに見ていたものは戸惑いを隠せなかった。
「えっと、熊ノ沢の七撃目までだったら使っても大丈夫です。八撃目を食らわせてしまうといくらまー君が強くても死んじゃう可能性があるから絶対にダメです。重ねて言いますが、まー君に対して八撃必殺の八撃目を食らわせることは絶対にしてはいけません。もしも、間違ってまー君を殺してしまったとしたら、大日本魔法倶楽部に所属するものだけではなく関係者一同も全員皆殺しにします。最後にもう一度だけ言いますが、まー君に対して八撃必殺を最後までしっかり食らわせて殺してしまったら、お前が少しでもかかわりを持っている人間を親族含めて全員殺すからな。以上、日本魔法連合協会代表理事零楼館乳首郎より。だって」
今から物凄い戦いが見れると思っていた観衆は愛華の姿を見て熱が冷めていたが、読み上げた内容を聞いてさらに体温が下がっていた。
観衆だけではなくまー君の熱も冷めてしまっていたが、まー君の場合はほんのわずかな上昇だったので他人が見ていると変化はないようにも思えた。
「八撃必殺を使うなって気持ちはわかるんだけど、俺がまー君と戦うってことを許可したのに止めるなんてちょっとおかしいんじゃないかな。それだったら最初から俺に戦う許可を出さなきゃよかったのに。それと、俺様の八撃必殺の魔法は一度放たれると途中で止めることなんて出来ないぜ。っていうか、あんたそんな大怪我で大丈夫か?」
今にも倒れそうな大怪我を負っている愛華を心配しているのはもちろん熊ノ沢だけではない。まー君も観衆たちもみな愛華のことを心配しているのだ。
だが、当の本人である愛華はこいつは何を言っているののだろうとでも言いたげな表情を浮かべていた。
まー君と熊ノ沢を含め観衆たち全員の視線が自分に集まっていることに愛華は気付いていたのだが、それは自分があまりにも美しいから仕方ないと思っていた。思ってはいたのだが、皆の視線が顔ではなく自分の手足やお腹に向いていることに気が付いた。
「あ、これはゾンビコスプレだから何ともないよ。特殊メイクで怪我をしているように見えてるだけだから。だから、私のことは気にしなくても大丈夫大丈夫」
先にこいつを殺した方が良いのかもしれない。
まー君と熊ノ沢は相手に気付かれないようにそう考えていた。




