第三話 未成年者淫行の罪と罰
サキュバス娼館に残っている一般サキュバスたちは零楼館乳首郎の発表を聞いて色めきだっていたが、イザーちゃんと同じく法律を破った時の罰則の怖さを知っているので浮かれ気分になることはなかった。
「イザーちゃんたちが手を出さないってことは私たちにもチャンスが巡ってくるってことですよね?」
今年入った新人サキュバスはまだ何も知らないので零楼館乳首郎の言っていることを自分なりに解釈してチャンスが訪れたのだと勘違いしていた。だが、それを優しく諭すベテランサキュバスたちは誰一人として怒ったりはしなかった。
「残念だけど、私たちにはそのチャンスは巡ってこないのよ。このサキュバス娼館に所属している限り、今のまー君に手を出すことは御法度なのよ」
「ええ、どうしてですか? 零楼館乳首郎はまー君の童貞を奪って満足させろって言ってますよね?」
「零楼館乳首郎が言っているのはそう言うことなんだろうね。でも、それは一般の人たちに向けての言葉なんだよ」
「それっておかしくないですか。だって、私たちにも平等にチャンスが与えられてもいいと思うんですけど」
「私たちもそう思ってるよ。でもね、私たちには未成年に手を出しちゃいけないって法律があるんだよ。それはあなたも知っているよね?」
「知ってますけど、それって私たちサキュバスだけじゃなく一般の人も同じですよね?」
「知ってるなら罰則のこともわかってるんだよね?」
「罰則って、二年くらい牢屋に閉じ込められるんですよね?」
この世界共通の法律で未成年者淫行罪は二年以下の懲役又は四億円程度の罰金となる。ほとんどの者が四億円程度の罰金を支払うことが出来ないので懲役を選ぶこととなるのだ。ただし、それは一般人であったりサキュバス娼館に所属していない野良サキュバスに限った話である。
では、サキュバス娼館に所属するサキュバスが未成年淫行罪を犯した場合にどのような罰則があるのかというと、二年以下の懲役は他の者と変わらないのだけれど、罰金の代わりに同じサキュバス娼館に所属する全てのサキュバスが同様に二年以下の懲役となる。連座制が適用されることとなり、そのサキュバス娼館は二年ほど実働実績を残せないこととなるので強制的に解散することになってしまうのだ。
この法律が施行されてから誰一人として未成年淫行罪を犯した者がいないので軽く見られがちではあるが、未遂に終わった場合でも自主的に解散を選択したサキュバス娼館は存在していたらしい。
「でも、あんなふうにメディアを使って大々的に言うってことは、法律の適用外だって可能性もあるんじゃないですか?」
「その可能性は十分に考えられるんだけど、確信が持てないとどうすることも出来ないのよ。私たちだってイザーちゃんよりも先にまー君に手を出したいって思いはあるんだけど、やっぱりみんなのことを考えると思いとどまってしまうのよね」
「そうは言いますけど、支配人も行っちゃっていいって顔してますよ」
全員の視線がソファに座っている一人の熟女に集まっていた。
美魔女という言葉はこの人のために生まれたのではないかと思うような妖艶な雰囲気をまとい、頭の先から足の先まですべての動きが男を魅了するように動いていると思ってしまうようなオーラをまとっていた。儚さを感じさせつつも力強さも感じてしまうアンバランスさがありながらも最終的には全て色気になっているような女性であった。
「私は支配人代理であって支配人じゃないんだけどぉ。でも、私もまー君の童貞をもらいに行っちゃうのはありなんじゃないかなって思っちゃうよぉ。だって、それが私たちサキュバスにとって本能的に求めちゃうものじゃないかなぁ。だから、こんな提案はどうかなぁ?」
妖艶な支配人代理がリモコンを操作すると全ての窓にシャッターが下りて出入口も全て閉鎖された。
外部からの侵入はもちろん、内部から外へ出ることも出来なくなってしまった。支配人代理による誰にも聞かれたくないお話が始まるという合図なのだ。
「あのね、みんなあなたと同じ考えだって言うことは理解してほしいんだけどぉ、それはわかってもらえるかなぁ?」
「はい、それはわかってます。でも、連座制が怖くて逃げるなんてサキュバスらしくないって思うんです。みんなに迷惑をかけることだってのはわかるんですけど、あんなに美味しそうな童貞を食べちゃわないなんてもったいないことできないです」
「うんうん、わかるわかるよぉ。でも、あなた一人の問題で済まなくなっちゃうってのもわかるよねぇ?」
「わかります。その代償として、みんな一緒に二年間お勤めするってことですもんね」
「まあ、そういう事になるんだけど、それ以外に何が待ってるかわかるかなぁ?」
「えっと、それ以外ですか?」
「そうだよぉ。二年間のお勤めが終わった後に何が待っていると思うのかなぁ?」
「……わからないです」
「良かったぁ。わかってたらどうしようかと思ったよぉ。娼館のみんなから恨まれるってのは当然なんだけど、二年間私たちに会えなかった男の人たちも相当恨んじゃうんじゃないかなぁ。お客さんだけじゃなく、ここに遊びに行こうかなって思ってた人からも恨まれちゃうと思うなぁ。これは私の想像でしかないんだけどぉ、このサキュバス娼館が無くなった恨みはあなた一人の余生で償えるようなものじゃないと思うんだ」
終始柔らかい物腰だった支配人代理の最後の言葉は新人サキュバスにとって鋭い刃を突き付けられたように感じていた。いつも優しいお姉さんだと思っていた支配人代理の強い意志を感じた新人サキュバスは罪が二年程度のお勤めだと軽く考えていたことを恥じていた。
自分の軽率な判断で皆を不快にさせたことをその場で謝罪したのだった。
「わかってくれたらそれでいいんだよぉ。だから、ここからが本題ねぇ。みんな、一度しか言わないからちゃんと聞いて欲しいなぁ」
優しいお姉さんに戻った支配人代理が部屋の中央へ移動すると、皆でそれを囲むように肩を組んで近付いて行った。
もちろん、新人サキュバスもベテランサキュバスも関係なく輪を作って支配人代理を囲んでいた。
「サキュバス娼館に迷惑をかけない方法、私は知ってるよ」




