第三十二話 プロローグ完結
二人の視線を避けるように椅子の向きを変えて背を向けたまー君。そろそろこの部屋を出ても良いのではないかと考えていた。
しかし、それを防ぐかの如く零楼館乳首郎と愛華はまー君が扉に向かえないように立ちはだかっていた。
「そんなに急いでどうしたのかな。俺の話をもう少し聞いてから帰っても、遅くはないと思うよ」
「乳首郎の話を聞く価値なんてあるのか疑問だけど、まー君はもう少しここに残ってた方が良いと思うよ。まだ帰れるだけの元気は戻ってないでしょ?」
「確かに。言われてみたらそうかもしれない。こうして立ってるのもつらいくらいだし、もう少しだけ休ませてもらおうかな」
「元気になってくれないと困るからね。まー君に元気がないってことは、私に魅力がないと思われてしまうからね」
「そんな事よりも、俺の話に聞く価値がないなんて聞き捨てならないんだけど。いったいどういうつもりで言ってるのかな?」
「どういうつもりって言われても。そのまんまの意味だとしか言えないんだけど。ねえ、まー君もそう思うでしょ?」
出会ったばかりの人に聞くようなことではないだろうとまー君は思ったが、肯定できない代わりに否定もできなかった。まー君の煮え切らない態度を見て零楼館乳首郎も愛華もやや不満そうではあったが、あまり深く追及されることもなく時間は過ぎていった。
椅子を少しだけリクライニングさせて体力の回復に努めているのだが、なかなか思っているように体力が回復しない。いつもであればこれくらいの疲労感はすぐに抜けて元気になっているはずなのだが。
「あの、愛華さん。バレないようにまー君の体に触れるの止めた方が良いんじゃないかな。君が触れてると、まー君の体力が全然回復しないと思うんだけど」
「もう、私は心配しちゃダメってことなのかな。そんな事を言う乳首郎の言うことなんてやっぱり聞かない方が良いんじゃないかな」
この二人は仲が良いのか仲が悪いのかわからない。
ただ一つ言えるとすれば、この二人の目的がまー君をこの部屋にとどめておくという事なのだ。
多分。
「そんなこと言っても俺は止まらんよ。もうすでに日本魔法連合協会に通達は出してるからね。これからどんどん楽しくなっていくから、二人とも期待しててね」
「まー君が弱っている間にどこかに連絡してると思ったら、そういう事だったのね。本当に抜け目ない男だよね。まー君は強くても隙があって人間味があるのに、乳首郎って効率重視で隙が無いからロボットみたいだよね」
いったいどんな通達が出ているというのか。まー君は気になっていたのだが、愛華がずっと触れ続けている影響であまり深く考えることが出来ないでいた。体力だけではなく思考能力も奪われているようで、まー君はこの状況を打破するいいアイデアが一切浮かんでいなかった。
「それで、どんな通達を出したって言うのよ?」
「聞いて驚け」
「わあ、驚いた」
「まだ早い!!」
どこまでが本気なのかわからないやり取りと見せられたまー君は黙って二人を見守っていた。
何も言わずに見守られているという事が少しだけ恥ずかしくなったのか、愛華は零楼館乳首郎から少し離れた。ただし、まー君の体には依然として触れ続けていた。
「俺が会員、組合員、委員、構成員、その他すべての関係者に通達した内容は“まー君を行動不能にしたものには望みの褒美を取らせる”ってのと“まー君の童貞を奪って快楽に溺れさせたものには望みの褒美を取らせる”の二つだ!!」
「バカみたいな通達してたのね。でも、それってどっちも乳首郎がサキュバスとお楽しみの時間を作りたいからやってねってことだよね?」
「そう言うことだ。まー君の契約をちゃんと隅々まで確認してみると、『永久契約期間中に報酬を支払うことが出来ない期間が三日続いた場合は契約を一時停止することが出来る』って書いてあるんだよ。つまり、まー君が行動不能になって魔力を供給することが出来なくなった時には俺がイザーちゃんとプレイすることが出来るってわけさ」
バカみたいな通達をしたもんだとまー君も思っていたが、そんな条項があったなんて気付かなかった。契約書はちゃんと隅々まで読んだ方が良いなと思ったが、そんな事態になることはありえないだろう。生きてさえいれば、たとえ意識がなかったとしても供給する分だけの魔力は自然と回復するだろうし、支払いが滞ることなんて無いのだ。
「でもさ、意識が無くても魔力は自然と回復するんだし、支払いが滞るなんて思えないけどな。まー君くらいの魔力量なら回復だけでも追いついちゃうんじゃない?」
「さすがは愛華。目の付け所が素晴らしい。でも、この屋敷には魔力が一切使えない場所があるのは知ってるよな?」
「知ってるよなって、ほとんどの部屋で魔法が使えないようになってるでしょ」
「そう言うことなんだよ。この屋敷では魔力が使えないってだけなんだけど、個々の技術をさらに発展させるとどうなるか、わかるかな?」
「もったいぶらないでさっさと言いなよ。早くしないとまー君が死んじゃうよ?」
死んでしまうかもしれない理由は愛華にあるのだが、この女は優しいのか優しくないのか判断に困ってしまう。だけど、冷静に考えることも出来なくなっているまー君は黙って二人のやり取りを聞いているだけで精いっぱいだった。
「つまり、外部との魔力交流を完全に遮断することも出来るってことだ。そうなると、いくら魔力が回復したところで供給する手段が立たれるという事だ。それ以上は言わなくてもわかるよな?」
「わかるけど、そこまでしてサキュバスと遊びたいってことなの?」
「当然だろ。史上最高ランクで過去最高評価を獲得しているイザーちゃんとそれに匹敵すると言われているうまなちゃんだぞ。そんな二人の至高で究極の技を体験せずに死ねるか」
「はあ、男って本当にバカよね。でも、それだけじゃ誰もまー君と戦おうなんて思わないでしょ。リスクにリターンが全くみあってないじゃない」
「それは大丈夫だろ。何せ、副賞として日本魔法連合協会の最高責任者に任命しちゃうからな。ちなみに、任期は死ぬまでだ」
「あ、それなら私も参加しようかな。このまま抱き着いてその部屋まで連れて行って一緒に暮らせばいいだけだし」
「残念だけど、その部屋はまだ完成してないんだ。ごめん」
これからは多くの男がまー君の自由を奪い、多くの女がまー君の童貞を奪いにやってくる。
それらに対してまー君はどのような抵抗を見せるのだろうか。
新しい冒険が、今始まる。




