第二十七話 初代と八代目
設立初期段階から教育機関としての評価が高かった零楼館。彼ら一族にとって自分たちが戦闘に参加するという発想はなかった。教育者自らが先頭に立って戦闘を先導する必要などないと思っていたし、戦闘に参加して万が一にも命を落としてしまうようなことがあってはならないと考えてしまっていたのである。
だが、歴史を重ねていくと一人や二人くらい異端者は生まれてしまうもので、零楼館夜光は育成よりも己の能力を向上することに注力し、寿命を全うするまで最前線で戦闘を繰り返していた。戦闘に参加しているのにもかかわらず、死因が老衰だったという事からもわかる通り“最強”と呼ぶにふさわしい人物であった。
初代零楼館夜光の死後、最強と呼ぶにふさわしい人物が代々零楼館夜光の名を継ぎ、イザーちゃんと出会うまでの 零楼館乳首郎が八代目零楼館夜光の名を襲名していたのだ。不思議なもので、零楼館夜光の名を継いだものは誰一人として戦場で命を落とすことがなく、死因は老衰や全く関係ない病気で襲名したものすべてが天寿を全うしたと言っても問題ないだろう。
イザーちゃんとの出会いによって八代目零楼館夜光の名を捨て 零楼館乳首郎と名乗ってはいるものの、彼以外に戦闘を好むものが誰一人として存在していないので零楼館夜光の名は空いているのだが、零楼館乳首郎の活躍を目撃したものの多くは未だに零楼館乳首郎のことを八代目と呼ぶものも少なくない。
能力的には再挑戦者の方が強いのは当然だが、実際に戦って勝つのは八代目零楼館夜光だと思っている者は多く、自他共に認める最強の再挑戦者であるまー君も零楼館乳首郎との戦いに勝利するという姿を想像しきれないでいたのだ。
何か特別な能力があるのでもなく、人並外れた怪力や魔力があるというわけでもない。それなのにもかかわらず、実際に目の前にいる零楼館乳首郎の姿を見ると全力を出し切れないんじゃないかと感じてしまうのだった。
「まー君がこの人に勝てないんじゃないかって思う理由は何かわかるかな?」
「全然わからない。それがわかったところで戦いたいなんて思わないけど、君はそれを知っているのかい?」
「もちろんだよ。だって、その理由って乳首郎のそばにずっと私がいるからなんだよ。まー君は全く意識してないと思うんだけど、私が動くたびに視線をそっと私に向けてるんだからね。普通に戦いに集中してたらまー君は絶対に負けないと思うんだけど、他には絶対にありえない程実力が拮抗している者同士の戦いの最中によそ見をするなんてありえないよね。ちょっとした油断で自分の勝利を手放すことになるなんて面白いよね」
部屋を自由に出たり入ったりしている愛華のことは気になっていたし、その動きをまったく予想できないという事も気になっていた。
だが、一番気になっていた理由というのが、見かけるたびに衣装が違うという事なのだ。その衣装のどれもがまー君の注意を引くという点では完璧に作用していたし、次にどんな衣装を見せてくれるのかという期待感もあって無意識のうちに視線を送ってしまっていた。
「言っておくが、この作戦は俺が立てたわけじゃないからな。愛華が自分の意志で勝手にやってるだけだからな。だから、俺のことをズルいとか卑怯だとか思うなよ」
「それはわかってるよ。このことに関してあんたの事をズルいとか思ってないし。次はどんな格好でやってくるんだろうって興味はあるけど、それを聞いたらあんたから意識を外すことなんて無くなっちゃうけど?」
「まあ、口ではそう言うだろうな。いや、それが本心なんだとは思うけど、もう俺から視線を外しちゃってるじゃないか」
言われてから気付いたのだが、本当に無意識のうちに零楼館乳首郎から視線を外して愛華のことを凝視していたまー君であった。頭の中では零楼館乳首郎から目を外すなと思っているのに、気付いた時には愛華のことを見つめていたのだ。
それも仕方のないことで、コスプレと呼んでもいいのかわからないが、愛華はバスタオルを一枚巻いただけの姿でそこに立っていたのだ。上は胸元から下は膝上くらいまでバスタオルをゆったりと巻いただけの姿。それを見るなという方が難しい話だし、見ない方が失礼なのではないかとも思っていた。ただの言い訳だとしか思えないのだが、男なら誰しもその気持ちに同意してしまうのではなかろうか。
「愛華はスレンダーな体型なのに足はムチッとしてていいだろ。いくらでも見ていられると思うんだが、俺といるときはこんな風に衣装を次々と変えてくれないんだ。いくら頼んでも変えてくれないんだよ」
「だって、乳首郎に見せたって楽しくないし。あんたが興味あるのって、イザーちゃんってサキュバスだけでしょ?」
「そうなんだけど、それとこれとは話が違うだろ。男はいつだってワガママなんだよ。なあ、あんたもそうだろ?」
今までは零楼館乳首郎から視線を外さないと思っていたまー君だが、この質問の後には自分から視線を外していた。同意できないわけではないのだけれど、その質問に同意してもいい事なんて何もないんじゃないかと思えたからだ。
愛華は何かを考えた後、二人のことをじっと見つめていた。
バスタオルが落ちないようにしっかりと押さえつつだが、その姿からはあまり色気を感じることがない。それがまー君には不思議でならなかった。




