第二十三話 神の奇跡を畏れよ
誰にでも思い込みや勘違いはある。まー君のように力も頭脳も直観力も洞察力も何もかもが人類最高レベルの物を持っていたとしても、何かやましいことがあればそうなってしまうこともあり得るのだ。
ただし、相手がごく普通の人間であればその可能性は限りなくゼロに近くなると思うのだが、 零楼館乳首郎という自分にも匹敵するような強者が相手であれば話は変わってくる。全て見透かされているのではないかという気になってしまい、いつもでは起こりえない偶然が重なって思い込みをしてしまい、最終的には相手の考えを読み違えてしまっていたのだ。
まー君がこのようなミスをしたのは、 再挑戦者になって初めての事であった。
「なるほどなるほど、それで何となく話がかみ合っていないように感じたのか。それなら納得だな。だけど、そんな大それたことを考えていたなんて思いもしなかったぞ。今までも魔王を隔離して平穏な場所を作ろうという計画は持ち上がったこともあったんだけど、それを実行するためには途方もない魔力と際限なく使える人材が必要だという事で諦めてしまったんだ。あんたが考えている魔王を育成して自分以外には倒せないようにするってのはちょっと容認することが出来ない話ではあるが、完全に隔離してあんた以外には接触できないようにするっていうのだったら認めないとは言い切れないな。連合協会としては容認することは難しい話になるが、俺個人としては大いに賛成だ。魔王と戦うことが出来ない、もしくは、魔王と戦ったところで絶対に勝てない。そんな魔王の育成を認めるべきではないと思うものだっているのかもしれないからな。それに、そんな事はありえないと思うんだが、あんたしか倒せない魔王を残してあんたがこの世界から消えてしまう可能性だってわずかにあるんだからな。その辺を指摘されると全会一致で承認するというのは難しい話になると思うんだ」
魔王を隔離するのだから何の問題もないのではないかと考えてたまー君だったが、万が一にも自分がいなくなってしまったという状況をまったく考えてはいなかった。まー君の中では魔王を倒さなければ強くてニューゲームを選べないのだから自分がこの世界からいなくなるなんて考えていなかったが、強くてニューゲームを選ぶこととは別の事でも自分が消えてしまう可能性があるという事を思い出した。
自分が神よりも強くなっているという自覚があるので考えてもいなかったのだが、どんなに強くなって神の力を超えているとしても絶対に回避することが出来ない神の奇跡があるのだ。さすがのまー君も神の奇跡には抗うことは出来ず、素直に受け入れてしまう以外に選択肢はないのだ。
理不尽ともいえる力にも感じてしまうのだが、神の奇跡は世界の秩序を乱すものを裁くための最終手段として存在している。いかなる強者であっても抵抗することは不可能であり、神よりも優れた能力を手に入れたまー君は存在しているだけでも世界の秩序を乱していると言っても過言ではないのかもしれない。そのうえ、自分のためだけに魔王を育成し自分のためだけに隔離するという事も神にとっては見過ごせないことになるのかもしれない。
だが、人類の守護者たる神が誰の手にも負えない魔王を残してまー君を強制的に他の世界へ送るなんてことをするだろうか。誰もがそんな事を神が選ぶはずがないと思っているし、絶対にしてはいけないと考えている。それはまー君だけではなく、全人類も思っているだろうし、神もそう思っているだろう。
だから、そんな事を憂慮する必要などないとまー君は言ってしまいたいのだが、そう言い切ってしまうだけの根拠は何一つ持ち合わせていないのだ。
今まで何度も理不尽だと思うことを神はやってきたことをまー君は知っているし、こんな風に油断しきった時こそ、絶対にやらないだろうと思ってる時こそ神という存在は最悪なタイミングで最悪な選択を決断し実行してしまうものなのだ。
「中にはあんたの事を信用していない者もいるだろうが、こうして面と向かって付き合った俺から言わせてもらうと、あんたのことを信用することに何の疑問もない。俺個人としてはあんたがやろうとしていることに出来る限りの協力をしたいと思っている。でも、それには一つだけ条件を出させてほしい。その条件をのんでくれたら、他の理事たちを必ず説得すると約束しよう」
「その条件とは、いったいどんなものなんだ?」
零楼館乳首郎は笑顔を浮かべてはいるが、目の奥には何かどす黒い感情が見え隠れしていた。まー君が今までに出会ったことが無いようなおぞましい何かを隠しているようにしか見えない。
だが、どんな条件であれソレを拒むようなことをするべきではないとも考えているのだ。
「俺がどうして 乳首郎に改名したのかわかるか?」
「いや、わからん。そもそも、解明したという事も今初めて知ったんだが」
「そうなのか。てっきり俺のことをイザーちゃんから聞いているのかと思ったぜ」
「イザーちゃんからあんたの事を聞いた記憶はないな。何か怯えているようにも見えたけど、過去にどんなことがあったんだ?」
「聞いてもらいたい気持ちはあるのだが、こればっかりは話せば長くなってしまうので端的に言おう。その方があんたにもいいだろ?」
零楼館乳首郎が改名した理由なんてどうでもいいことだとまー君は思っていたのだが、ちょっと話をしたそうに見えているので軽く聞く分には問題ないと考えてしまった。
二択を間違えることがほとんどないまー君ではあったが、今回に限ってはその選択が正しくないのかもしれない。
いや、どちらを選んでも間違いかもしれない。
そんなお話を聞く羽目になるのであった。




