第二十一話 弱くてコンテニューを選んだ理由 その2
三人の間に流れていた重い空気を動かしたのは愛華だった。いかにも重そうな着物をはらりと翻し、まー君に対して少しだけ横向きに座りなおすと浅く二度ほど深呼吸をしていた。
「私が弱くてコンテニューを選んだ理由は……最初からやり直すのが面倒だったからだよ。あなたみたいに強ければ最初からやり直すのもありだと思うんだけど、私みたいに可愛いくらいしか取り柄がない女の子は最初からやり直すなんて面倒なことはしたくないのよ。それに、私みたいな可愛いだけしか取り柄がない女の子を仲間に入れてくれて魔王を倒せるような奇特な人はいなかったんだもん。私が実力で魔王を倒すことが出来るわけないんだし、強くてニューゲームを選べるはずがないんだよね。だって、私はただ可愛いだけで戦闘に関しては何の役にも立たないんだもん。ただのマスコットみたいな癒しの存在で可愛い事しか存在価値がないんだからね」
まー君も 零楼館乳首郎もそこまで自分の容姿に自信を持っている愛華のことを尊敬しつつあった。自他ともに認める最強の戦闘力を持つ二人でさえ、自分が強いと思っていてもあそこまで自信満々に言い切ることは出来ないだろう。
仮に言えたとしても、あそこまで自分のことを自信満々に言えたりするわけがないのだ。言ったとしても相手にギリギリ聞こえない程度の聞き返されるような声量と活舌になってしまうのは間違いない。
もしかしたら、サキュバスのうまなちゃんとイザーちゃんクラスになれば自分のことに自信をもって可愛いと言い切れるかもしれないが、まー君と 零楼館乳首郎にはまだ少しだけ人並みに羞恥心があったりするのであった。
「弱いけど可愛いってのはわかったし、強くてニューゲームを選べるほど戦っていないというのも分かった。でも、弱くてコンテニューなんて選ぶ方法を聞いたことがないんだけど。それってどうやれば選べるの?」
「どうやればって言われても、私もコレって言い切れるほど確信はないんだけど、世の中に絶望して自分で命を絶つことが出来たら選べるんじゃないかな。私が最初に選んだ時が仲間が全員殺されて気持ち悪い男に襲われそうになって自分で頭を撃ち抜いた時だからね」
自分で頭を撃ち抜いた?
全く予想もしていなかった言葉が愛華の口から出てきてまー君は混乱していた。
頭を撃ち抜いたという事は、拳銃か何かを所持していて自殺に使用したという事なのだろう。その拳銃を襲ってきた相手に向けることは出来なかったのだろうか。まー君は疑問に思っていたのだが、それを疑問に思うという事はまー君が強者であるという証なのかもしれない。
「一つ疑問なんだけど、自分の頭を撃ち抜くんじゃなくて相手を撃ち殺すとかは出来なかったの?」
「うーん、やろうと思えばできたかもしれないけど、私にはそれが出来なかったかな。人に向けて撃つことなんて考えたこともなかったし、撃ったところでちゃんとその人に当たるかもわからなかったからね。それに、他人の命を奪う事なんて私にはそんな思い罪を背負ってまで生きていこうなんて気持ちはなかったからね」
「でも、自分が死ぬよりも相手を殺して助かる方が良いと思うんだけど。俺だったらそっちの方を選ぶと思うんだけど」
「そうだよね。その方が普通かもしれないよね。でも、私には相手を殺しちゃうことよりも自分が死んでしまった方が楽だなって思えるんだよね」
「だけど」
まー君が自分の考えを愛華にぶつけようとしたのだが、それを制止するように 零楼館乳首郎が二人の間に割って入った。
「あんたの言いたいこともわかるし、愛華の考えも理解出来る。お前たち二人は強者と弱者であるからこそ、お互いの考えを理解しあえるという事がないんだろう。多分、何となくといった軽い部分ではお互いの言いたいことを理解しているとは思うんだけど、それをちゃんと納得して受け入れられるほどには理解しようとしていないんだよ。まー君は強者ゆえに相手を確実に殺しておくことが出来ると思うんだろう。愛華は弱者であるがゆえに相手を仕留めそこなったあとに待っている苦痛を受け入れることが出来ず、自らの手で終わりを告げたいと思っているんだろう。強者は弱者の考えを完全に受け入れるという事は出来ないだろうし、弱者も強者の考えを理解することなんて出来ないだろう。その事だけをわかってくれたらこの場は丸く収まるんだと思うけど、どうかな?」
まー君も愛華も物凄く薄い部分で相手の言っていることを理解することは出来た。表面上という事さえもはばかられるような理解度ではあったが、お互いに歩み寄ることは出来たかもしれない。
強者と弱者が分かり合えることは難しいのだが、ほんの少しずつでも分かり合えることが出来たのならいつの日かゴールにたどり着けるかもしれない。
「自分で自分を殺した後に弱くてコンテニューが選べるんだとして、弱いまま生き返っても状況は何一つ変わらないと思うんだけど?」
「そこはちゃんと考えられてるんだよ。弱くてコンテニューの数少ない利点の一つに、絶対に安全な場所から続きが出来るってことなんだ。ここに来るまでに結構な回数自殺したんだけど、ここよりも安全な場所なんてどこにもないと思うからここが終の棲家になるって思ってるんだよね」
零楼館乳首郎が守っているこの場所はどんな敵がきても大丈夫だと思うし、そもそも敵が襲ってくることなんて無いだろうと思う。
世界中で戦争が起こったとしても、異世界人がこの星を侵略してきたとしてもココだけは安全なんじゃないかと思えるだけの力と空気感が 零楼館乳首郎から感じ取れたのだ。
でも、自分で自分の命を絶つという事に関して納得してはいけないような気持もどこかに残っていたまー君であった。




