第二話 サキュバスとのサブスク契約
サキュバス二人の正面に座っている男は視線をどこに向ければいいのかわからず不自然に壁の方を向いたり天井を見ていたりした。その様子を見たサキュバスは全てを察して二人同時に狩人の目になっていた。男は緊張で目を合わせることが出来なかったのでその視線には気付かなかったのだが、自分が狩られる側に回ってしまったという事には気付いていた。狩られる側の気持ちになったのは最初の冒険の時以来だったので新鮮な感じがしたのだが、その時とは違い恐怖ではない感覚だったので同時に楽しみにも感じていた。
サキュバス二人は目の前に座っている挙動不審な男から資料へと視線を移したのだが、いろいろと気になることがあったのでそれを確認することにしたようだ。男には聞こえないような声量で何かを話しているのだが、その表情を見る限りでは何か良くないことがあるようにも感じられたのだ。
「えっと、契約のことでいくつか確認しておかなくちゃいけないことがあるんだけどいいかな?」
事前に契約していたので今更何を聞くのだろうと思った男ではあったが、彼が契約を結んだ時にはこの二人はいなかったのだから改めて確認するのだろうと男は軽く考えていた。彼女たちの表情を初めて見た男は何やら不穏な空気を感じていたのだが、そこまで特殊な性癖だったのかと少しだけ不安になっていた。
自分ではごく普通でノーマルな事だと思っているようなことでも、実は特殊なプレイで一般的にはありえないことだったりすることもある。そんな話を聞いたことが有るような無いような思いをしていて、彼女たちの顔を見ていると不安な気持ちは少しずつ大きくなっていった。
「登録しているお名前は『まー君』で間違いないよね?」
「はい、それで登録しました。本名の方が良かったですか?」
「あ、そこは大丈夫。ほら、こういうのって非日常体験に近いから現実の自分と違う自分で楽しみたいってこともあるだろうからニックネームでもいいと思うよ。今までも本名の人の方が少なかったくらいだし」
本名で登録しないといけなかったのかと思っていたまー君はとりあえず安心していた。登録名がニックネームでは全力で楽しめないのかと思ってしまったが、それはただの杞憂であったようだ。
「契約期間なんだけど、まー君が死ぬまでの永久契約ってことで間違いないよね?」
「そうですね。俺が死ぬかこの世界からいなくなるまでってことですね」
「まー君は 再挑戦者だから途中でいなくなる可能性もあるってことだね」
「私たちと契約してるんだからそんな気は起きないと思うけど、物足りないなって思ったら早目に言ってね。改善出来るところはちゃんと努力するからさ」
二人から感じる只者ではないオーラは数多の経験を積んできたまー君にも感じられた。今までとは違う好奇心と向上心に満ちた二人の気迫に少しだけ負けそうになっていたまー君ではあったが、当然まー君にも二人に負けない強い好奇心と向上心はあるのだ。
「あと、オプションなんだけどコレは私たちのためにちょっとだけ変えてもらってもいいかな?」
「本当に申し訳ないんだけど、後進を育てるって意味でもそこはお願いしたいんだよね。きっと、まー君にとっても悪い話じゃないと思うんで」
「そこは大丈夫です。もともとオプションは付ける予定がなかったんで。二人の好きなように変えちゃって大丈夫です」
「ありがとうね。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「もちろん、私たちの後輩なんで変な子は来ないから安心してね」
オプションにはこだわりのないまー君は二人が喜んでくれるのならと快く了承した。
二人が所属している娼館には厳格な採用基準があるためその辺にいる怪しいサキュバスは所属していないという実績があるのだ。それをしっかりと確認していたまー君は何も不安に思うことはなかった。
ただ、二人の表情が時々曇っているように感じるときがあるのは少しだけ気になってはいた。
「まー君から射精するたびにいただく魔力量なんだけど、多分三回くらいは射精しても死なないと思うんだよね。ただ、私たちで二回ずつ射精するんだったら魔力の回復次第で生命に関わっちゃうかもしれないんだよ」
「そこで提案なんだけど、一日三回分の魔力を毎日いただくことで無制限発射出来るサブスクプランもあるんだけどどうするかな?」
「毎日四回は無理だって思うんだったら通常プランで全然いいと思うんだけど、これって半年ごとにしか契約内容を変えることが出来ないんだよね。毎日三回分の魔力を支払うのは辛いって思うんだったら通常プランでもいいと思うんだけど、私もうまなちゃんも一回ずつじゃ満足出来ないかもしれないし……」
「だよね。まー君のこともいっぱい満足させたいからね」
「わかった。そのサブスクプランでお願いします」
一日に何回出来るか自分でも把握していないまー君ではあったが、こんなことで悩んでいるのかと思うと少しだけ面白いと思ってしまった。
三回分の射精で取られる魔力量がどれくらいのものなのかよくわかっていないが、死なない程度に支払うのであれば毎日でも問題などないだろう。
むしろ、定期的に魔力を使うことでより自分の成長に繋がるのではないかという思いも多少なりともあったのだ。
だが、その契約を済ませた後も二人の表情は曇っているときがあった。
まだ何か不安なことがあるとでもいうのだろうか。
まー君は少しだけ不安な気持ちになってしまった。




