第十七話 ズレた二人
茶室にいるのにもかかわらず茶を飲まないなんてこともあるのだ。
お互いに茶をたてた経験がないので仕方ないのかもしれないが、この場所を指定したんだからそれなりに勉強しておいてほしいとまー君は思っていた。当然、 零楼館乳首郎も同じことを考えて反省していた。
「さて、そろそろ場も温まってきたことだし、ここいらで本題に入っても問題ないよな?」
まー君としてはひたすらプレッシャーをかけられていただけの時間だったようにしか思っていないのだが、どこをどう解釈すれば場が温まってきたなんて言えるのだろう。しいて言うのであれば、入り口を開けたことで少しだけ茶室の室温が下がっていたのが戻ったという事くらいだろう。それ以外に何か温まったと感じられるものは何もなかったのだ。
「もしも、まだ寒いようだったら火鉢をそっちに移動するけど、どうする?」
「えっと、そこまで寒くないと思うんで大丈夫かも。そっちに置いておいてくれて大丈夫です」
「おお、そう言ってもらえると助かるよ。年のせいか最近めっきり寒さに弱くなっちゃってね。最近はこいつのそばが定位置になっちゃってるんだ」
まー君は強くてニューゲームをたくさんしたおかげで気温の変化にもすぐに対応できる体になっているのだ。そのせいか、多少であれば窓や扉が開きっぱなしでも気にすることもなく平気で過ごしていたりもする。もちろん、防犯面での不安など何もないという前提の上でのことなのだが、同じ部屋を利用するものがいれば物凄く迷惑に感じてしまう行為だろう。
零楼館乳首郎は火鉢に当たって温まりながらもまー君に向かって鋭い視線を向けていた。その視線に気づいているまー君ではあったが、特に気にしていないとアピールするかのようにいつもと同じように待っているだけだった。
まー君のそのアピールにどれくらい効果があったのかわからないけれど、 零楼館乳首郎がその重い腰をゆっくりと上げようとしているのが見てとれた。だが、まだ体が温まりきっていないからなのか火鉢を抱くように座りなおすと、視線をまー君からそっと外してしまった。
それを見ていたまー君は見ていなかったふりをし、どのように切り出してくるのかを黙って待っている事しかしていなかった。
「普通の 再挑戦者とは違うってのは話に聞いていたし、実際にこうしてその姿を拝ませてもらうとその言葉にも納得は出来た。でもな、どんなに凄い 再挑戦者だったとしても、あんたのやろうとしていることは人としてどうなんだろうな。いや、男として考えてもよくないことなんじゃないかって思うんだけど、あんたはそれに対して何か弁明することはあるかい?」
色々と言葉を用意していたまー君ではあったのだけれど、まさかのストレートすぎる問いかけで言葉に詰まってしまった。もう少し何か外から責めてくるものだとばかり思っていたのだが、紛れもなくど真ん中に投げ込まれた質問に思わず面食らってしまっていた。
即答しなかったことに対して 零楼館乳首郎は特に何か思うようなことはないようだけれど、かえって即答しなかったことでプラスにとらえているようにも思えた。
「まあ、難しい問題だよな。あんただって色々考えたうえでのことなんだろうし、それを俺たちがどうこう言う筋合いもなってのはわかるよ。でもさ、制度上認められていることだからと言って、それでやってしまおうなんて思わないでほしかったな」
「でも、他の人に迷惑はかけないようにするつもりなんだけど」
「みんな最初はそういうのさ。でも、あんたがこれからしようとしていることを誰かに話したりなんてするんだろ?」
「いや、そんなに大っぴらに言うような事でもないし。聞きたいって言われたら話すかもしれないけど、俺から進んで話すような事じゃないと思う」
「進んで話したくないってのはわかるけど、世の中にはソレを聞きたいってやつもごまんといるわけだし、ソレを絶対に聞きたくないってやつも同じくらいいるかもしれないよな。あんたがどんなに努力して今の地位を築いたのか知らないけれど、 再挑戦者だって言うんだったら次の機会に試してくれてもいいんじゃないかな?」
「俺もできればそうしたいところなんだけど、今回ばかりは仕方ない理由があるから。それは理解してほしい」
「仕方ない理由か。男はみんなそう言うんだよな。俺も男だから気持ちはわかるぜ」
かみ合っているようで微妙にかみ合っていない二人の会話ではあるが、それもそのはずまー君としては魔王を育てようとしていることを咎められると思っているのだ。だが、それに対する 零楼館乳首郎は魔王なんてどうでもいいと思っているし、そんなものを育てたいと言われたらどうぞご自由にと返すだろう。まー君に対して思っているのはただ一つ、史上最高ランクのサキュバスと永久契約を結んだことを咎めたいと思っているのだ。それも、一人だけではなく次世代のエースも含めてしまっているというのだからより一層罪深い。
まー君とうまなちゃんとイザーちゃんが契約をしている間は他の人が二人と遊ぶことは出来ない。もちろん、まー君が許可をしたうえで一緒に遊ぶという事になれば話は別なのだが、そんな展開は絶対にありえない。まー君は意外と嫉妬深く他の男の影を嫌うのだ。だからこそ、他の男を加えてプレイをしようなどとは微塵も思っていない。
そう言うわけで、まー君が死ぬか新しくやり直すまでこの世界にいる人たちはうまなちゃんともイザーちゃんとも遊ぶことが出来なくなっているのだ。
もちろん、二人にこだわらなくても十分に満足できるサキュバスは無数に存在しているし、相性によっては二人を超える満足感を味わうことだってできる相手がいるのだ。
でも、史上最高評価のテクニックも体験してみたいと思うのが男のサガというのもである。




