第十五話 危ない男たち
結局何も教えてもらえないまま 零楼館乳首郎との面会に挑むことになったまー君であった。
なんだかんだ言って法律に縛られているように見せかけていただけで、本当のところは夜になったらお楽しみの時間が待っている。そんな事には一切ならずに朝を迎えていたのだ。
まー君は少しだけ寝不足気味であった。
時代劇でしか見たことが無いような駕籠に乗って零楼館邸へと向かっているのだが、駕籠を担いでいる二人が何の訓練も受けていないのか歩くよりも遅いスピードでしか移動していない。そのうえ、駕籠の側面には何も設置されていないのでまー君の姿が丸見えの状態になっているのだ。
こんなに恥ずかしい思いをしたのは生まれて初めての経験であった。
ゆっくりではあるが確実に零楼館邸へと向かっていると思われた駕籠であったが、担いでいる二人ともが方向音痴なのか似たような場所を何度も行ったり来たりして一向に景色が変わらなかった。
最初のうちは珍しいものを見たと手を振ってくれていた子供たちも、さすがに短時間に何度も同じものを見ると興味を失うようで一切見向きもしなくなっていた。それは別に何とも思わなかったのだが、野良犬がぴったりと同じ速さで並走しているのは少しだけ複雑な気持ちになってしまった。
「すいません。道が全然わからないです。どうしたらいいでしょう?」
「どうしたらいいでしょうって言われても、俺も零楼館邸がどこにあるのか知らないんだよ。地図とかあったりする?」
「一応地図はあるんですが、お客人の手を煩わせるわけにはいかないですよ。そんなことしたら僕たちクビになっちゃいますって」
「何とか自分たちの力だけで行かなくちゃ申し訳が立たないです。でも、どうしたらいいでしょう?」
「どうしたらいいでしょうって、俺が地図を見て道案内するから。そっちの方が確実でしょ。さっきから同じところを行ったり来たりしてるだけだし。ほら、最初のうちは物珍しいものを見たって子供たちも喜んでいたのに、三回目からはまた来たのかって顔で見てたし、今に至っては興味すら抱いていないじゃないか。駕籠に無理やり乗せられてみんなから見られて恥ずかしいなって気持ちがあったけどさ、今じゃそれとは違う恥ずかしさでいっぱいだよ。何度も何度も同じところを通って誰も興味を持ってないってのも恥ずかしいもんだね」
「いやいや、それは僕たちも一緒ですって。まー君さんだけが恥ずかしいって思ってるわけじゃないですから」
てっきり何の感情もなく担いでいるのかと思っていたまー君ではあったが、この二人にも羞恥心というものがあるのだという事に多少驚いていた。少しでも羞恥心があるのであれば同じところを三度も通らないとは思うのだが、そんな事を言っている間に同じお地蔵さんを見るのも十度目であった。
「さっきから気になってるんだけどさ、あのお地蔵さんが俺たちを邪魔しているとかはないよね?」
「何言ってるんですか。お地蔵さまがそんな事をするわけないでしょ」
「僕たちが単純に道に迷ってるだけですから。変なこと言わないでくださいよ」
どっちが変なことを言っているのだろうという言葉が喉元近くまで出てきたまー君だったが、その言葉をグッと飲み込んで心の底にしまい込んだ。法律的にはまだ未成年ではあるが、今まで何度も修羅場を潜り抜けたまー君の精神は完全に大人なのだ。
ただ、今みたいな自分が原因ではない修羅場は過去に一度も体験したことなどなかったのだが。
「俺が道案内をするのがダメなんだとしたら、その辺にいる子供たちに聞いてみるのはどうだろう?」
そんな提案をしつつも十中八九断られるのだろうとまー君は思っていた。この二人は他人に頼ることなどしなそうな頑固な一面があると感じていたからだ。
「そいつは良いアイデアですね。そうしましょう」
「零楼館邸は有名な建物ですもんね。きっと誰でも知ってますよ」
こんなにあっさりと提案を受け入れてくれるのだったら自分に案内させろよと思ったまー君あった。だが、そんな事を言っても何も始まらないのは理解しているため、二人がやりたいようにさせておいた方が良いんだろうとも考えていた。
少し離れた場所で遊んでいた子供たちに声をかけると一人また二人と徐々に子供たちが集まり、最終的には一クラス分と言ってもいいくらいの人数が集まってしまった。
そうなってしまうと駕籠に乗った状態のまー君にどうでもいい質問をしてくる子供も出てくるのだが、大人なまー君は変な質問に対しても大人な受け答えをして子供たちの興味を削がないように気を付けていた。
「みんなの中で、零楼館邸を知っている人?」
子供たちはその質問に対して自分が答えたいとアピールをするためなのか、誰もが隣の子よりも高く高く手を伸ばしていた。当てられる前に答えを言ってしまうような子が一人くらいいそうなものだが、お行儀が良いのか躾がしっかりしているのか答えを先に言う子供は誰もいなかった。
こうなってくると誰を指せばいいのか悩んでしまうのが人情というものだろうが、質問をした駕籠の担ぎ手が指名したのはどう見ても子供には見えない謎の棒を口にくわえて鼻から煙を出している大男だった。
どう見ても危険な予感しかしない大男だったのだが、周りにいる子供たちは担ぎ手から指名されたことをとてもうらやましそうにしていた。中には大男の背中や頭をバシバシ叩いている子供もいたのだ。
周りの注目を一身に集めている大男はくわえていた謎の棒状の物体を手に持つと、口から大量の煙をゆっくりと吐き出して後ろを向いた。
「ココガソウ」
実は、三人はすでに零楼館邸の前にたどり着いていたのであった。




