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第五章 第二の被害者と、三つ巴のゲーム

ご都合主義、独自設定が多々あります。ゆるい気持ちでお楽しみください。

「さて、と」

ザインは気絶した妖術師の顎を掴んで無理やり上を向かせると、麦酒の残りをその顔にぶちまけた。ヨエルはうめき声を上げて、ゆっくりと目を開ける。

「…無作法な」

「寝起きの客には、これが一番の持てなしでね」

ザインは、ヨエルの目の前に、あの紋章が刻まれた招待状をひらつかせた。

「『金獅子の御座』。王都でも指折りの高級宿舎だ。お前みたいなのが出入りするってことは、裏にいるのは相当な大物らしいな。誰だ? 誰に仕えてる?」


ヨエルは口元に歪んだ笑みを浮かべた。「それを知って、どうするのですかな、探偵殿。これは、あなたのような裏街の人間が首を突っ込んでいいゲームではない」

「俺の相棒が片足突っ込んじまったんでな。今更抜けられねえのさ」

「愚かなことですな。彼女の二の舞になりたいと?」

「その前に、お前が三の舞になるかもしれんぜ?」

ザインが懐の短剣に手をかけた、まさにその時だった。


ギルドの扉が、錠を蹴破るような轟音と共に吹き飛んだ。

「動くな、警備隊だ!」

土足で踏み込んできたのは、ゴードン隊長その人だった。彼は事務所の中の光景――床に転がる扉の残骸、縛り上げられた妖術師、そしてその上に乗るザイン――を見ると、獰猛な笑みを浮かべた。

「おいおい、なんだこの状況は。てめえの事務所は、いつからチンピラの拷問部屋になったんだ、ザイン?」


ザインは内心舌打ちしながらも、平然と立ち上がった。

「こいつは強盗だ。俺の留守中に金目のものを盗もうとしていたんで、捕まえてあんたらに突き出してやろうと思ってたところさ。ご苦労さん、隊長殿」

「強盗、ねえ」

ゴードンはザインの言葉を全く信用していない目で、ヨエルを一瞥した。だが、彼がここに来た目的は、それだけではなかった。

彼は、一枚の羊皮紙をザインの顔に叩きつけるように見せた。それは、警備隊の現場検証報告書だった。


「今朝、波止場の近くで死体が見つかった」ゴードンの声は、地を這うように低い。「被害者は、盗賊団『黒蛇』の頭領、ラドックだ」

ザインの表情が、わずかに硬直する。

「面白いことに」ゴードンは続けた。「殺され方が、てめえの相棒がやられた手口とそっくりだった。背中から、魔術刃で一突き。なあ、ザイン。偶然にしちゃあ、出来すぎてると思わねえか?」


ゴードンは、ザインが何も答えないのを見ると、今度は縛られたヨエルに顔を向けた。

「てめえがやったのか、この魔術師崩れが」

「まさか」ヨエルは優雅に首を振った。「わたくしは、ただのしがない強盗です。そのような大それたこと、できるはずもございません」

ヨエルは、ザインが作った嘘の筋書きに、即座に乗ってきた。この状況では、残忍な警備隊長に殺人容疑で尋問されるより、強盗未遂で捕まる方が遥かにマシだと判断したのだ。


「…ちっ」

ゴードンは、誰からも真実を引き出せないことに苛立ち、ヨエルを縛り上げていた縄を乱暴に解いた。

「こいつは、強盗未遂の容疑でこっちで預かる。てめえも、後で詳しく話を聞かせてもらうからな、ザイン。覚悟しておけ」

ゴードンはヨエルを引きずっていく。去り際に、ヨエルは一度だけ振り返り、ザインに向かって、誰にも読めないような冷たい笑みを浮かべてみせた。


嵐が去った事務所で、エルマが震える声で尋ねた。

「…どうなってるのよ、一体」

「どうもこうもねえさ」

ザインは、扉の残骸を足で蹴飛ばした。

「三つ巴のゲームの始まりだ。俺たちと、紋章の連中と、そしてゴードンのクソ野郎。誰が最初にしくじるか、チキンレースってとこだな」


彼は、懐に隠し持っていた紋章の金属片を、指先で弄んだ。

敵は巨大で、法は頼りにならない。

ザインは、こういうどうしようもない状況を、心の底から楽しんでいる自分に、改めて気づいていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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