十九章 目覚めた悪女と、四角関係の始まり
ご都合主義、独自設定が多々あります。ゆるい気持ちでお楽しみください。
ザインが、釈放されたリリアナを連れてギルドに戻った時、事務所の中は奇麗に片付いていた。壊れた扉は頑丈なものに交換され、床には血の痕一つない。エルマとアイラが、黙々と働いた結果だった。
「…おかえりなさい」
エルマが、複雑な表情でザインを迎えた。その隣で、アイラはリリアナの姿を認めると、その目に再び冷たい光を宿した。
「…あなた」
「…あなたが、アステリアのパートナーの方…」
二人の女の間で、見えない火花が散る。
その緊張を破ったのは、事務所の奥の部屋から聞こえてきた、か細い声だった。
「…うるさいわね。人が寝てるっていうのに」
全員が、息を呑んでその部屋を見た。
ゆっくりと開かれた扉の向こう、ベッドの上で半身を起こしていたのは、アステリアだった。その顔はまだ蒼白だったが、その瞳には、紛れもない、いつもの悪戯っぽく、そして全てを見透かすような光が戻っていた。
「アステリア!」
アイラが、泣きそうな顔で彼女に駆け寄る。
「…あら、アイラ。心配かけたわね」
アステリアは、パートナーの髪を優しく撫でると、その視線をザインに向けた。
「…で、どうなったのよ、ザイン」彼女は、まるで昨日の続きでも話すかのように、軽やかに言った。「私のいない間に、ちゃんと『お仕事』は片付いたんでしょうね?」
ザインは、呆れてため息をついた。
「ああ、おかげさまでな。お前が盛大にぶちまけた厄介事を、俺が綺麗に掃除しといてやったよ」
「あら、感謝するわ」
アステリアは、ベッドからゆっくりと立ち上がると、リリアナの前に立った。
「あなたが、リリアナ嬢ね。私を出し抜いて、殺そうとした。大した度胸じゃない」
「ひっ…!」
リリアナが怯えて後ずさる。
「でも」アステリアは続けた。「そのせいで、ザインが本気を出すことになった。結果として、私も助かった。だから、今回はチャラにしてあげる」
彼女はそう言うと、今度はザインの胸に、ぽんと拳を当てた。
「それから、あなた。ザイン。私のために、帝国と警備隊の両方を敵に回して、嘘の物語をでっちあげたんですって? …ふふ、あなたって、本当にどうしようもないお人好しなのね」
彼女は、ザインの耳元で囁いた。
「でも…そういうところ、嫌いじゃないわよ」
こうして、事務所には、四人の女が集結した。
ザインを裏切り、事件の引き金を引いた、悪女①のアステリア。
そのアステリアを殺しかけた、悪女②のリリアナ。
復讐と欲望のためにザインと手を組んだ、悪女③のアイラ。
そして、そんなダメな男たちから目が離せない、お目付け役のエルマ。
ザインは、自分を取り巻く四人の女たち――聖女の仮面を被った殺人未遂犯、裏切り者の相棒とそのパートナー、そして口うるさいが忠実な事務員――を見回し、殴られた頭よりももっと深い頭痛を感じた。
彼は天を仰ぎ、心の底から深いため息をついた。
「……わかった。もう、わかったから」
そして、うんざりしたように、しかしどこか諦めたように、こう宣言する。
「家賃は、四人で割る。依頼の取り分は……もういい、後で決める! とにかく、誰か酒を持ってきてくれ! 一番強いやつをだ!」
彼のやけくそな声に、四人の女たちはそれぞれの思惑を秘めた顔で互いを見つめ、そして、同時にくすりと笑うのでした。
ザインの、混沌として、危険で、そしておそらく退屈とは無縁の新しい日常が、今、始まろうとしていました。
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