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十八章 語られる嘘と、共犯の警備隊長

ご都合主義、独自設定が多々あります。ゆるい気持ちでお楽しみください。

グートマンたちが去った事務所は、奇妙な静けさに包まれていた。ザインは、床に散らばる水晶のかけらを一つ拾い上げると、それを指の上で弄んだ。


「アイラ」

彼は、まだ状況を飲み込めていないアイラに、静かに告げた。

「お前はここに残れ。エルマを手伝って、このめちゃくちゃになった事務所を片付けろ。俺は、最後の仕事を片付けに行く」

「最後の仕事…?」

「ああ」ザインは不敵に笑った。「王都で一番、話の分かる男に、この事件の『真相』を教えてやりに行くのさ」


ザインが向かった先は、自らのギルドではなかった。彼が足を踏み入れたのは、王都警備隊の、陰気で殺伐とした隊舎。法の番人たちの巣窟だ。

彼は、受付の兵士の制止を無視して、一番奥にある隊長室の扉を、ノックもせずに開け放った。


「よう、ゴードン。まだ仕事か? ご苦労なこった」

部屋の主、ゴードン隊長は、山積みの報告書の中から、忌々しげに顔を上げた。その目には、ザインに対する敵意と疲労が色濃く浮かんでいる。

「…てめえ、何の用だ。ここは、てめえみたいな裏社会のネズミが来ていい場所じゃねえ」

「そう言うなよ。あんたに、とっておきの『手柄話』を持ってきてやったんだぜ」

ザインは、ゴードンの机の前にどかりと腰を下ろすと、自信に満ちた声で言った。

「あんたが追ってる事件、俺が全部解決してやった。犯人が分かったぞ」


ゴードンは、眉をひそめた。

「…吐け。ただし、くだらねえ戯言だったら、てめえをこの場で蜂の巣にしてやる」

「話はこうだ」

ザインは、用意してきた完璧な「嘘」の物語を語り始めた。

黒幕は、帝国の大物貴族、グートマン卿。彼は、伝説の秘宝『女神の涙』を狙って、この王都に潜伏していた。

部下の妖術師ヨエルと、暗殺者ウィルを使い、邪魔になる盗賊の頭領ラドックや、船乗りヤコフを始末した。


「そして、俺の相棒アステリア」ザインは続けた。「あいつは、奴らの計画に気づき、一人で止めようとした。だが、返り討ちに遭った。アステリアを襲ったのは、帝国の暗殺者ウィルだ。プロの、冷徹な一撃だった」

「リリアナ嬢は?」

「ただの哀れな駒だ。帝国に利用され、脅されていただけの、被害者だよ。あいつは、何も知らねえ」


ゴードンは、黙ってザインの話を聞いていた。その顔は、何を考えているのか読めない。

「…証拠はどこにある?」

「ねえよ」ザインは、あっさりと答えた。「グートマンの連中は、昨夜のうちに、ウィルを連れてとっくに姿を消した。今頃、帝国の領海だろうさ。死人に口なし。あんたらに、これ以上追えるはずがねえ」


ゴードンの指が、机の上の魔導弩の引き金に、ゆっくりとかけられた。

「…てめえ、俺をコケにする気か? その話が、全部てめえのでっち上げじゃねえと、どうして言える?」

「ああ、でっち上げかもな」ザインは、その銃口を真っ直ぐに見返した。「だが、この筋書きは、あんたにとっても都合がいいはずだぜ、ゴードン」

彼は、ゴードンの心を見透かすように、言葉を続けた。

「『帝国の陰謀を、王都警備隊が未然に防いだ』。上層部への報告書としては、最高だろう? 面倒な裁判もいらねえ。行方不明の犯人を『国際手配中』ってことにしておけば、あんたの手柄は揺るがない。事件は、綺麗に幕引きだ」


長い、沈黙が落ちた。

やがて、ゴードンは、引き金からゆっくりと指を離した。

「…分かった」彼は、心の底から吐き捨てるように言った。「てめえの、そのふざけた筋書きに乗ってやる。報告書は、俺がうまく書いといてやるよ」

彼は、立ち上がると、ザインの肩を強く掴んだ。

「だが、勘違いするな。これは、てめえのためじゃねえ。この街の秩序のためだ。これ以上、てめえら裏社会のゴタゴタで、市民を不安にさせねえための、俺なりの『正義』だ」


ザインは、その言葉に何も答えなかった。

「じゃあ、話は決まりだな」彼は言った。「なら、無実の被害者であるリリアナ嬢を、いつまでも閉じ込めておく理由もねえはずだ。彼女は、俺が引き取る。心のケアが必要なんでね」

ゴードンは、奥歯をギリリと鳴らした。だが、一度筋書きを受け入れた以上、それを拒否する理由は、彼にはなかった。

「…とっとと連れて失せろ」


ザインは、隊舎の出口へと向かう。

「一つ、忘れるなよ、ザイン」

背後から、ゴードンの低い声が追ってきた。

「この事件は、公式には解決した。だがな、俺は、お前を一生許さねえ。お前と、お前が囲ってるあの女どもが、次に何かしくじるのを、俺は死ぬまで、じっと待っててやるからな」


ザインは、振り返らずに、ただ片手を挙げて応えた。

夜明けの光が差し込む王都を、彼は一人、自分のギルドへと歩いていく。

彼は、街で最も危険な警官を、共犯者に引きずり込んだのだ。

その勝利の味は、ひどく、苦かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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