十七章 明かされる真実と、愚者の選択
ご都合主義、独自設定が多々あります。ゆるい気持ちでお楽しみください。
グートマンたちが去った後の事務所は、まるで嵐が過ぎ去った後のようだった。砕け散った偽の宝石のかけらが床に散らばり、気絶したウィルが横たわっていた場所には、わずかな血の痕が残っている。
エルマは、どこからか見つけてきた箒で、黙々と水晶のかけらを掃き集め始めた。アイラは、長年の追跡対象がガラクタだったという事実に、まだ茫然としている。
だが、ザインは違った。彼の頭は、この事件の最後の謎を解き明かすために、冷徹に回転していた。
「…なあ、アイラ」
ザインの静かな声が、部屋の沈黙を破った。
「あんたの話には、まだ穴がある」
アイラは、驚いて顔を上げた。
「何のこと…?」
「か弱い、ねえ」ザインは静かに言った。「じゃあ聞くが、アステリアを襲ったのは誰だ? グートマンの連中か? 奴らは秘宝がどこにあるか探ってたんだ。アステリアを生かしておいた方が情報を引き出せる。昏睡させるなんてのは、一番の間抜けなやり方だ」
ザインは、徐々にアイラを追い詰めていく。
「だが、もしアステリアに『駒』として利用され、用が済めば消されると気づいた人間がいたとしたら? そいつにとって、アステリアはただの邪魔者だ。情報を引き出す必要なんかない。口を封じ、無力化するのが最善手になる」
そして、彼は決定的な一言を告げた。
「あの夜、アステリアが一人で調査に出ることを知っていて、彼女に近づくことができて、彼女を始末する動機があった人間は、このゲームには一人しかいねえ。…リリアナだよ」
真実が、明らかになった。
アステリアは、ザインを裏切った。
リリアナは、そのアステリアを殺しかけた。
そしてアイラは、その全てを知りながら、自分の欲望のためにザインと手を組んだ。
誰もが嘘つきで、誰もが罪人。
「…どうするの、ザイン」エルマが、震える声で尋ねた。「このまま、警備隊に?」
ザインは、しばらく何も答えなかった。
彼は、床に散らばる水晶のかけらと、テーブルに置かれたグートマンの血塗られた金貨、そして目の前で覚悟を決めた顔をしているアイラと、心配そうに自分を見つめるエルマを見回した。
前の相棒が死んだ時、彼は復讐を誓った。だが、その果てにあったのは、この虚しい結末だ。
グートマンは、六十年という人生を、ただのガラクタのために浪費した。
ここで、アイラを突き出し、リリアナの罪を暴き、二人を牢獄に送る。そして、一人でこの金貨を抱えて生きていく。それが、正しいことなのか?
それは、あまりにも――虚しすぎる。
「…いや」
ザインは、ゆっくりと首を横に振った。
「この件は、もう終わりだ」
「え…?」
「俺は、ゴードンにこう話す。アステリアを襲ったのは、帝国の暗殺者ウィル。そしてリリアナは、それに巻き込まれただけの被害者だ、と。…グートマンの連中がウィルを連れて姿を消した今、死人に口なしだ。ゴードンも、これ以上追いようがねえ。筋書きは、俺が作る」
それは、ハードボイルドな探偵でも、復讐者でもない、ただのザインという男の、愚かな選択だった。
彼は、アイラに向き直る。
「だが、勘違いするな。これは赦しじゃねえ。共犯者の契約だ。お前も、アステリアも、そして牢獄から出すリリアナも、これからは俺のために働いてもらう。二度と、俺に嘘をつくな。次に裏切ったら、その時は――」
ザインの目は、もう笑ってはいなかった。
「――俺自身の手で、お前たちを始末する」
アイラは、その言葉に、恐怖ではなく、歓喜に似た表情を浮かべた。
「ええ、望むところよ…ボス」
こうして、事件は終わった。
そして、一人の男と、三人の悪女(と、一人のお目付け役)の、奇妙で、危険な新しい物語が、静かに始まろうとしていた。
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