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十六章 砕け散る秘宝と、愚者の夢

ご都合主義、独自設定が多々あります。ゆるい気持ちでお楽しみください。

部屋の中央では、床に転がるウィルを挟み、ザインとグートマン卿が睨み合っていた。勝者と敗者、あるいは、これから始まる新たなゲームのプレイヤーとして。


「さて、ザイン殿」グートマンは、まるで何事もなかったかのように言った。「あなたの誠意と、我々の誠意は、互いに確認できましたな。では、最後の取引と参りましょう。『女神の涙』を、ここへ」


ザインは、解放された手首をさすりながら、満足げに頷いた。

「ああ、いいだろう。だが、あんたも聞いている通り、厄介な魔法罠が仕掛けてある。解除できるのは、俺が信頼する、そこのエルマだけだ」

彼は、エルマにだけ分かるように、わずかに片目を瞑ってみせた。


エルマは、その合図の意味を即座に理解した。「罠の解除」という、最後の嘘を演じきるのだ。彼女は緊張に顔をこわばらせながらも、力強く頷くと、ギルドの地下へと続く隠し扉へと向かった。

しばらくして、エルマは古びた木箱を、まるで爆弾でも運ぶかのように、慎重に抱えて戻ってきた。そして、テーブルの中央に、そっとそれを置いた。


部屋にいる全員の視線が、一つの汚れた木箱に注がれる。

六十年。グートマン卿が人生のすべてを捧げて追い求めてきたものが、今、目の前にあった。彼は震える指で木箱の蓋をゆっくりと開けた。

中には、黒いビロードの布に包まれた塊が鎮座している。ヨエルが慎重に布を取り払うと、鶏卵ほどの大きさを持つ、青白い宝石が姿を現した。それはまるで内側に星空を宿したかのように、淡く、神秘的な光を放っていた。


「おお……!」

その輝きに、グートマンは思わず感嘆の息を漏らした。だが、彼はすぐに我に返ると、ヨエルに鋭く命じた。

「ヨエル、鑑定を」


ヨエルは、懐から鑑定用の魔道具モノクルを取り出して右目に当てた。彼は宝石に向け、慎重に魔力を流し込み始める。

数秒後。

ヨエルの顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。彼は、絶望に満ちた声で、主君に報告した。

「閣下……これは…完璧な、しかし完璧なだけの…模造品にございます」


「――やはりか」

グートマンの動きが、完全に止まった。彼は、ヨエルの言葉が信じられないかのように、テーブルの上の宝石を凝視する。

やがて、彼は自らの手でそれを拾い上げ、長年の経験で培われた鑑定眼で、光にかざし、その隅々までを検分した。


そして。


「……く」

喉の奥から、絞り出すような、押し殺した声が漏れた。

「く、くく……あ、ははははははははは!」


それは、笑い声だった。絶望と、怒りと、六十年という歳月が無に帰したことへの、狂気じみた哄笑だった。

彼は、宝石を床に叩きつけた。甲高い音を立てて砕け散り、ただのガラス屑が転がる。

彼は、しばらくその破片を呆然と見下ろしていたが、やがて、まるで憑き物が落ちたかのように、静かな、しかし底なしに虚しい表情に戻った。


「……茶番は、終わりじゃ」


彼は床に転がるウィルをブーツの先で蹴った。

「そのガラクタは、くれてやる。約束通り、警備隊への『お土産』にでもするがいい」


彼は、ザインが受け取っていた金貨の袋を一瞥した。

「その金も、くれてやろう、探偵殿。我々の、壮大な無駄骨に対する、せめてもの手切れ金だ」


「行くぞ、ヨエル」


グートマン卿は、もはや砕けた宝石のかけらには目もくれず、ヨエルと共に、静かに事務所から去っていった。その背中には、執念の炎はもうなく、ただ空っぽの虚無だけが漂っていた。

彼らが気絶したウィルを担ぎ出して去った後、事務所には壊れた家具と、砕け散った偽の宝石、そして呆然と立ち尽くすザイン、アイラ、エルマの三人だけが残された。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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