第六十五話 嵐に紛れて
海を切り裂くような雷光が夜空を焦がし、轟く咆哮が嵐の町にこだました。
港の桟橋――。
終は波しぶきを浴びながら、風と雷を操る一人の剣士の姿を見つめていた。
風を纏い、波の上を駆けるように動くその剣士は、明らかに常人の領域を超えていた。
閃く剣閃。空気を裂く雷。海竜の鱗すら焼き焦がしていくその威力。
(へえ。……風と雷か。やっぱり只者じゃなかったんだね)
終が目を細めた瞬間――。
かすかに、嵐の音に混じって聞こえてきた。
「――たすけ、て……!」
小さな声だった。だが、確かに耳に届いた。
終とエルリナ、そしてユナが同時に振り返る。
港の倉庫街。そこに、不自然に人影が集まっていた。
――攫われていたのは、薄紫色の髪の女の子だった。
「っ、ノアリスッ!」
エルリナが鞘から剣を引き抜き、地を蹴る。
誘拐犯の一人が、ノアリスを抱えたまま船へと向かっている。
エルリナの剣が光を引き、雄叫びと共に敵を一人、斬り伏せた。
「シュウ様」
「うん、頼んだよ」
「了解」
乱戦が始まった。
ユナは魔導ライフルを構え、着実に標的を狙い撃っていく。
エルリナはその俊敏な剣技で敵の懐へと踏み込み、次々と切り倒す。
終は倒れた敵の身体に鉄糸を巻きつけ、瞬時に拘束を仕掛けていった。
敵の数がみるみる減っていく。
一気に形成を優勢へと持ち込む三人。だが――
ゴォォン……!
低く唸るような音と共に、巨大な波が港を襲った。
木製の桟橋が軋み、積まれた木箱が転がり落ちる。
その波に煽られ、誘拐犯の腕からノアリスの身体が放り出された。
「――っ!」
ユナが即座に飛び込み、ノアリスをしっかりと抱き留めた。
しかし、その大波は終達の味方ではなかった。
拘束していた誘拐犯が、緩んだ鉄糸を振りほどいて立ち上がる。
さらに、船から新たな武装した男たちが次々と飛び降りてくる。
囲まれていく終達。
(うん、大ピンチ……って感じかな)
敵の一人が、ノアリスを抱えるユナの後頭部に銃口を突きつけた。
「おかしな真似をするんじゃねえぞ。さもなくば……」
終もエルリナも、即座に手を上げ、無抵抗を示した。
エルリナの剣が地面に落ち、カランという音が鳴る。
「くっ……! あともう少しだったのに」
ユナとノアリスは、そのまま船へと連れ込まれていく。
船の甲板では、既に出港の準備が済んでいた。
即座に出航する船。
「どうするのよ、シュウ!」
「ちょっと黙っててね」
終とエルリナの周囲には、居残り組と思われる敵が残っていた。
その時――。
びゅう、と――強い風が吹きつけた。
(……遅かったな。後で少し叱らないとね)
突風に煽られ、敵の体勢が一斉に崩れる。
その隙を逃さず、終は懐から黒銀の魔導リボルバーを抜き放った。
連射。そして殲滅。
雨が降り頻る中、火花が散り、敵が次々と沈んでいく。
エルリナが桟橋の先を指差した。
「シュウ! もう、あんなに遠い!」
沖合いへ進み始めた船の甲板には、かろうじて見えるユナとノアリスの姿があった。
「くっ……」
その時だった。
剣士と戦っていた巨大な海竜が、怒りに満ちた咆哮を上げた。
(んー、じゃあ、こうしよう)
終は躊躇なく、魔導リボルバーを海竜に向けて撃った。
大きめの魔力弾が、海竜の尾に命中。
体の軸をずらされ体勢が崩れる海竜。
その隙は見逃されなかった。
風を纏う剣士が、まるで空を駆けるように海竜の喉元へ近づき――
雷鳴と共に、その首を一刀のもとに斬り落とした。
巨体が海に沈む。
しかし、嵐はまだ止んでいなかった。
海上を進む誘拐船の灯が、どんどん小さくなっていく。
終は黙ったまま、その船を見つめる。
(さて、この裏にいるのは、何色かな)
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