第五十六・五話 骸骨王、玉座で語る
ラディウスは見晴らしの良い玉座の間の椅子の感触を確かめた。
ふかふかの座り心地。
肌から感じられる体温の温もり。
それは骨の体では実感することのなかった感覚。
受肉したラディウスの今の体は、人の体――国を治める王の体である。
しかし、そんな温かさよりもラディウスには重くのしかかる重責があった。
『じゃ、僕はテキトーにやるから、あとはよろしくね』
(我があるじよ。その深き思想は我には計り知れない。しかし、授かった大役とその任務、必ずや果たしてみせる)
ラディウスは、受肉したゼフィルの体と顔で笑みを浮かべていると、玉座の間にやってくる人物の姿を捉える。
「どうした?そんなに慌てて」
「慌ててなんかいないわよ!忙しいだけ!」
忙しなさげな様子でやってきたのは、カーラという名前を授かった女の悪魔。王宮で働いていた侍女の体に受肉し、今はラディウスの下で事務仕事を担っている。
「ここに来たということは、何か確認することが?」
「ええ。そうよ。それぞれの部署に適切に仕事を割り振るためにも、事実確認は急務なの」
「そうか。それで何が知りたい?」
侍女姿のカーラは、分厚い書類の束をめくりながら、ラディウスにあれやこれやと質問をし始めた。
「――要約すると、我があるじが、どのようにして魔王の力を手に入れ、この後、どう動くべきか……ということだな?」
「ええ。大魔王様が喜ぶことを先回りして準備しておくことが大事なの。今、行なっているいくつかの計画も含めて」
「……よかろう。少し長くなるが良いか?」
「良くないわ。かいつまんで話して」
カーラの返答に苦笑したラディウスが話し始める。
「我があるじは、この王国――リベルタ王国に存在する違和感を感じていた。それは人々の記憶障害という不可思議な出来事。いろいろと探っていく内に、それは王族に関係していることを突き止めた」
「王族から話が聞けたの?」
「そうだ。第二王女エルリナから」
「ああ。あのお転婆ね」
カーラは、ふふんと鼻を鳴らす。
「第二王女エルリナが語ったのは、王国の歴史。王国の建国に関わることだった。その昔、人間は戦争をしていた。相手は――悪魔族だ」
「……ふーん」
「人間は個体では悪魔族に歯が立たない。しかし数や武器、魔法によって悪魔族と拮抗した戦闘を継続していた。……ある時、人間は企んだ。悪魔族の力を人間に移植できないかと」
「禁忌の実験でもしたの?」
「そうだ。捕らえた悪魔族を使って人体実験を行った。……結果、悪魔族を打ち滅ぼす戦力を人間は手に入れた。そして副次的に、悪魔族を汚染する魔力が人間界に漂い、悪魔族は実体を保てなくなった」
「悪魔族と悪魔は、同じではないわ」
カーラの言葉に首肯するラディウス。
「……悪魔族が地上から消え去った後、人間族にも被害が出るようになった。それは超人兵士の暴走、そして悪魔化。そんな悪魔と成り果てた超人兵士を操ることのできる力が存在した。それは魔王の力と呼ばれ、人間の国同士での力の取り合いが起きた。……結果、王国だけが残った」
「少しずつ見えてきたわね」
「戦争をする相手のいなくなった王国の王は力を封印することにした。『世界には我々しかいない。これ以上同族を減らすのは良くない』。封印される魔王の力。そしてその力が一目につかないように、二度と使われないようにするために、記憶操作の力だけを王冠に移した」
カーラの視線がラディウスの頭の上にある王冠へと注がれる。
「その王冠は……ふふっ」
「ふっ。……その後、魔王の力を封印すると、悪魔達がどこからか湧いてくるようになった。当時の国王は封印は万全ではないということに気づいた。いつしかこの力は復活してしまう。その力を抑えるために道標を残す必要がある。国王は各地を周りながら神や精霊、龍などから力を借り受けていった」
「……なるほど。それで大魔王様が旅に出ちゃったのね」
うんうんと頷きながらメモをとるカーラ。
「さて、話が長くなってしまったが――」
「あっ!もうこんな時間!ごめん、その話はまた今度で!」
ピューっと駆けていくカーラ。
その遠ざかる背を眺めるラディウスは玉座から立ち上がり伸びをする。
「……あともう少しで我の出番だったのにな」
王国の秘密を知った終は、さらに集めた情報で王国の地下に祭壇があることを発見し、教団に潜入させていたユナと共に祭壇で魔王の力を入手。
ユナから悪魔召喚の情報を聞いた終がラディウスを召喚し、王国を乗っ取る計画を立てた。
「……古代の魔王の力。それは悪魔を操る力。……我があるじの力と同一なのだろうか?……まあ良いか。我も進むのみである」
ラディウスは玉座の間を後にした。
その背中は寂しげだったが、どこか充足しているようにも見えた。
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