第五十六話 機械仕掛けの愛
禁じられた森は、先ほどまでの戦いが嘘だったかのように、ひっそりと静まり返っていた。
終達に拘束され、抵抗を止めた母親の姿をした何かは、微かに軋む機械音を響かせながら、壊れかけの声で呟く。
「……どうして……ダメなの……? 私と……おんなじに……なれば……この子達……私を……嫌わない……。お願い……解放して……。子供達が……好き……だから……」
その声はまるで壊れかけのオルゴールのようで、悲しみに満ちていた。
終は剥がれ落ちた皮膚の下にある無機質な金属の骸骨を見つめる。
(死んでも続く母親の愛、か……)
そんな思いが頭を過る。
「お母さん……」
「かあ……さん……?」
泣きじゃくる子供達を、エルリナがそっと抱き止める。
その時――
「おいっ! お前たちっ……!」
森の奥から松明を掲げ、息を切らした父親が駆けつけてきた。
「ルイン……エド……無事だったのか……!」
父親は子供達を抱きしめ、震える声で呟く。
「ごめんな……お前たち……全部……全部、俺のせいだ……」
嗚咽混じりの声に、終が静かに問う。
「……どういうことか、説明してくれないかな?」
父親は涙を拭いながら語った。
この前の王国の悲劇の日、森の魔物が暴れ出し、妻は子供達を庇って命を落としたこと。
そして――
禁じられた森の“御伽話”を信じてしまったこと。
「……信じられないだろ? でも……もし、本当に生き返るならって……。だから……妻を……ここに……」
男は拳を地面に叩きつけ、唇を噛む。
「……くそっ……俺が……俺があんな噂なんか信じたから……」
機械の体が、ギギギ……と軋む。
奥さんの赤い瞳が微かに揺れた。
「……あなた……私の……サド……。愛して……いたわ……。子供達に……愛してるって……伝えて……あげて……」
最後の言葉を残し、奥さんの体は崩れるように地面に沈み込み、動かなくなった。
暗い森に、冷たい風が吹き抜けていく。
その後、王女一行は父親と子供達を村まで送り届けた。
森を後にする前、終達は墓標周辺を調べたのだが、そこには何の痕跡も残されていなかった。
(死者の蘇生。……超常の力が関係しているかと思ったが、気のせいか)
けれど、そこに何かがあるような、そんな疑念だけが胸に残った。
◇ ◇ ◇
朝日が昇り、森の闇を追い払っていく。
エルリナ達は再び神聖国へと続く道を歩いていた。
山を越え、木々の間から遠くに海が見える。
水平線に朝日が反射し、黄金色の道を描き出している。
エルリナは静かに歩きながら、昨日出会った家族のことを思い出していた。
(……家族って……ああいうものなのかしら……)
王国一の剣姫と謳われた自分。
しかし、その王国を治めた父――国王は魔王に殺され、母は行方知れず。
そして兄や姉は――。
「王女様?」
ふいに、シュウの声が聞こえた。
顔を上げると、いつものように眠そうな目をしたシュウが歩きながらこちらを見ている。
「神聖国ってさ。聖女様がいるんだよね。一応、僕達は“王女様御一行”って肩書きがあるけど……身分を証明してくれる人って、いるの?」
エルリナは少し俯き、苦笑を浮かべた。
「……ええ。いるわ。私の兄……リヴェルタ王国第二王子が、神聖国に滞在しているはずよ」
「へえ。なら安心だね。……どんな人?」
終の興味本位の問いに、ユナも静かに耳を傾ける。
エルリナは少しだけ顔をしかめ、溜息をついた。
「……そうね。良い意味で敬虔な信者よ。それも――重度のね」
(……王国一の変人が相手。悪い人ではないけど、厄介ね……)
その心の呟きと共に、エルリナは視線を海の向こうへと向けた。
風は冷たく、しかし心地良かった。
――そして、王女一行は神聖国へと歩みを進める。
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