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第五十五話 墓のしるべ


 禁じられた森は、普通の森とはまるで別の世界。


 空は黒々と沈み込み、月明かりは分厚い雲に阻まれている。

 湿った腐葉土の匂いが重く漂い、遠くでフクロウが低く鳴いた。


 ――ザクッ、ザクッ。


 規則的に響く音が森を満たしている。


 終は足音を忍ばせ、ユナとエルリナを手で制した。

 三人は木の影からそっと覗き込む。


 ――ザクッ、ザクッ。


 そこにあったのは墓標。

 そして――その前で地面を掘り返す何者かの姿。


 月光が差し込み、地面にうずくまる小さな影が照らされる。


 怯える子供達だ。

 姉弟は土まみれになりながら、必死に泣き叫んでいた。


「やめて……お母さん、やめて……!」


 女の子が掠れた声で縋るように叫ぶ。

 しかし子供達の母親は顔を伏せ、スコップのようなものを動かす手を止めない。


「……これで……これで、同じになれる……。そうしたら……私のことを……ずっと……」


 その声は呟きというより、壊れた人形のようだった。


「……っ……」


 エルリナが剣の柄に手をかける。


「待って」


 終が小さく囁く。


「この状況で突っ込んでも……」


「でも……!」


 静かに声を荒げるエルリナに、終は鋭い視線を送る。


「冷静に」


 エルリナは唇を噛みしめ、そして頷いた。


 二人が作戦を立てようとした、その時――


 ――バキッ。


 エルリナの足元で枝が砕けた。


 ピクリと母親の体が動く。

 ゆっくりと振り返る。


 その目が――


 真紅に光っていた。


「……誰……?」


 母親の声は異様に低く、空気が震えた。


「行くわよ!」


 エルリナが剣を抜き、飛び込む。


「ユナ、援護!」


 終が叫ぶと同時に、ユナが魔導ライフル銃を構えた。

 銃口が淡く輝き、銃声が夜を裂く。


 ――バンッ!


 母親の肩に弾がめり込み、血が飛び散った。


 だが――


「……!」


 母親は怯むどころか、むしろ楽しげに笑った。


 剣を抜いたエルリナが駆ける。

 剣先を母親へと向け、その瞳に哀しみを滲ませながら。


「……ごめんなさい」


 小さく呟きながら、彼女は一気に踏み込んだ。


 月光を反射する刃が、母親の体に向けて振り抜かれる。

 

 しかし母親は剣を受け止めるでも避けるでもなく――


 そのまま腕で受けた。


 ――ギンッ。


 剣が硬質な何かに当たり、嫌な音を立てて弾かれる。


「何……っ!」


 エルリナの目が驚愕に見開かれる。

 剣が斬った箇所からは、血のようなものが滲んでいる。

 その赤は異様に黒く、斬られた皮膚の隙間からは光沢のある金属が覗いていた。


「くっ……!」


 終は短剣を構え、母親の背後に回り込む。


 しかし母親は振り向きざまに肘打ちを繰り出した。

 重い衝撃が終の腹部を打ち抜く。


「……っ、が……!」


 数メートル吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。


 その隙にユナが連射を試みるが、母親はゆっくりと振り向くだけだった。


 ――バンバンバンッ!


 弾丸が胴体を貫くも、赤黒い液体が流れるだけで動きは止まらない。


(効いてない……!?)


 母親がユナへと突進する。


「ユナ!」


 終が飛び起き、左手から細い鉄糸を伸ばす。

 母親の脚に巻き付け引っ張る。


 しかし――


 ギチギチギチ……バチンッ!


 一瞬で鉄糸が引きちぎられた。


「何なの……こいつ……!」


 エルリナが呟く。

 母親は血の涙を流しながら笑っている。


「私と……同じに……なれば……!」


 次の瞬間、母親が拳を振り上げる。


 終とエルリナとユナ、三人は無言で頷き合った。


(手加減していたら子供達が危険だ。一気にいくしかない……!)


「行くよ!」


 終が指示を出す。


 エルリナの剣閃が奥さんの腕を払い、ユナの銃撃が膝を撃ち抜く。

 体勢を崩した母親の背後に、終が回り込む。


 ――キンッ。


 鉄糸が月光を反射し、母親の体を縛り上げた。


「ギ……ギギ……ギィ……」


 糸に拘束され、奥さんは異様な声をあげてのたうつ。


 その顔の皮膚が裂け、剥がれ落ちる。


 ――そこには、冷たい金属でできた骸骨のような頭部があった。


 赤く光る双眸と、無機質な機械の音。


 不気味なその姿に、三人は息を呑む。


 暗い森に、機械仕掛けの亡霊の呻き声が響き渡った――。




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