第四十九.五話 タケっち、帝国で吠える
山を越え、砂漠を越え、また山を越える。
「ふんぬっ!! おりゃあああっ!!」
タケっちは吠えながら険しい崖を駆け登る。
そしてそのまま山頂で雄叫びを上げた。
「いやーっ!! 景色ええなあっ!!」
しかし、次の瞬間には首を傾げる。
「……ここ、どこや?」
迷子である。
地図なんぞ持たず、方角も適当。
そのたびに出会った村人に道を聞き、村の食堂のおばちゃんに飯を奢ってもらい、ガキ大将には腕相撲で勝ち、宿屋の主人には「壁に穴を開けるな」と怒鳴られた。
そしてまた旅立つ。
◇ ◇ ◇
道中、魔物や魔獣に出くわす。
「おうおう! 今日は猪かっ!! よっしゃ、いっちょ揉んだるわっ!!」
倒すたびに村人から感謝される。
が、その死骸の山や、地面に刻まれた衝撃痕を見た村人たちは、決まって微妙な顔をした。
「た、助かったけど……もう少し、こう……やり方というか……」
「細けぇことは気にすんなっ!! 俺は生き物は大事にする主義やからなっ!!」
タケっちは誇らしげに胸を張った。
◇ ◇ ◇
そして――
ついに帝国に辿り着く。
目の前に広がる巨大な城壁と、整然と並んだ機械兵たち。
金属質の重厚なゲート。見張り台に立つ武装兵たち。
(ほーん。でっけえ国やな。さすが帝国っちゅーだけあるわ)
帝国ヴァルラグナ――
そこは軍事国家であり、人口も多く、統治と管理が徹底された国。
国民全員が管理下に置かれ、監視網は王国の比ではない。
武器や兵器の開発にも余念がなく、優秀な者はスカウト、もしくは拉致され、帝国研究所で新兵器開発を強いられる。
そのため最新鋭の兵器は、他国の追随を許さない。
「さて、と。行くかっ!!」
正面ゲートを堂々と通ろうとしたその時。
「侵入者発見!! 排除せよ!!」
無機質な声と共に、機械兵たちが一斉に剣を抜く。
「おんおん? 歓迎の挨拶にしちゃあ物騒やなぁ!!」
タケっちは大剣を肩から下ろし、無造作に構える。
「おらぁっ!!」
大剣を薙ぎ払う。
瞬間、鉄と鋼で造られた機械兵の上半身がまとめて吹き飛んだ。
後方の武装兵たちが慌てて銃剣を構えるも、その間にタケっちは一歩踏み込み――
「ふんぬらぁああっ!!」
垂直に振り下ろされた大剣の一撃で、兵士ごと地面を陥没させた。
瓦礫と煙が上がる中、タケっちは大剣を肩に担ぎ直し、にやりと笑う。
「おうおう!! どないしたっ!! 帝国ってのはそんなもんかっ!?」
その声に応えるように、奥のゲートが静かに開いた。
カツ……カツ……と靴音を響かせて現れたのは、痩せ細った長身の男。
ピシリと糊の効いた軍服を纏い、鼻の下に薄い髭、顔には知性と胡散臭さが同居している。
鋭いメガネの奥の瞳がタケっちを値踏みしていた。
「いやあ、流石です。素晴らしい力だ」
男はゆっくりと拍手をする。
「ふっふっふ。ご挨拶が遅れました。ワタクシ、シド・ヴァイゼルと申します。以後お見知り置きを。貴殿が噂の冒険者殿ですね」
「おん? 俺は有名なんか?」
「ええ。あの滅んだ王国で、魔王と対峙したという……冒険者殿ですよね?」
「まおー? 誰だそれ?」
「ふふ……とぼけても無駄ですよ」
男はメガネを指で押し上げ、笑みを深める。
「我々、ヴァルラグナ帝国は、貴殿を“勇者”として迎える準備があります。どうですか? 一緒に世界を魔の手から守りませんか?」
帝国は――
変革の時を迎えようとしていた。
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