第四十七話 侵食
「いててて……」
軋むような痛みが全身を襲う。
瓦礫を押し退けながら這い出した終は、小さく息を吐いた。
(騎士団長より厄介だったんじゃないのか。あの王女は)
怪物と化した騎士団長を倒し、すぐに次の計画へ移ろうとしていた終だったが、エルリナに捕まってしまった。
この後のことを考えると彼女を連れていくわけにはいかない。だから仕方なく王宮の出口へ向かった。そして崩落のタイミングを計り、エルリナを引き剥がすことに成功した。
「さて、と」
伸びをする終。
崩落の衝撃による怪我はない。だが、先程の戦いで負った傷が疼いていた。
「んー、加減がわからないから、治しにくいんだよな……。まあ、いいや。とりあえず急がなくちゃ」
立ち上がる。
向かう先は、この王宮で最も危険な場所。
◇ ◇ ◇
王宮最上階では、荒れ狂う戦闘が続いていた。
「おらああっ!!」
咆哮を上げ、大剣を振るう漆黒の大男。
そしてその斬撃を骨の壁で防ぎ、骸骨の軍勢を召喚する異形の悪魔。
二人の戦いはもはや一つの戦場というより、世界そのものを塗り替えるような破壊と暴威の応酬だった。
そして――その場に、もう一人。
「……ねえ。もしもーし!!……聞こえてる?」
呼びかける声。
白いボロボロの衣服を纏った終がそこに立っていた。
だが、二人は気づかない。
タケっちが戦闘狂なのは理解している。だが、ラディウスまで戦いに没頭しているとは思わなかった。
(……知り合ったばかりだけど、意外と好戦的なんだね)
終は小さくため息を吐く。
いつもなら見守っているだけで済ませたかもしれない。だが、今は時間がない。
「……仕方ない。加減はわからないけど……やってみるか。あいつらなら、何があっても大丈夫そうだし」
終は、まだ試していないことがあった。
それは祭壇で新しく手に入れた力であり、その力の内の一つがラディウスの召喚だった。
手を広げる終。
黒い魔力が掌に蠢いた。
禍々しく、重く、冷たく、まるで怨嗟と呪詛でできたような魔力。
「……王国に封印されていた力。……想像以上におぞましいね」
集まる魔力は終の腕を覆い、肩へ、胸へ、やがて全身を黒く包み込む。それは終に戸惑いを与える程に。
「……とはいえ、さっさとしないと腐っちゃうからね」
そう呟き、黒い魔力を一気に解放した――
(あっ……これは……)
次の瞬間、終の意識が深淵へと落ちた。
押し寄せる絶望と悲鳴。
『やめてくれぇ!!』
『殺さないで!!』
『ここから出して……誰か、誰かぁ!!』
無数の声が響く。
背筋を氷で裂かれるような恐怖が終を包む。
(……これは……人の声……?)
五感が消えた。
視界が閉ざされ、聴覚が狂い、触覚が失われる。
そして理解する。
(体が……ない……?)
自分の存在が霧散していく。
体はバラバラに引き裂かれ、黒い魔力と混ざり合い、溶けていく。
(んー……困ったな。これは予想外だったよ。……未知の力に……手を出すもんじゃないね……)
思考がぼやけていく。
光が遠ざかる。
次に目覚める時、彼がまだ“終”でいられる保証は、どこにもなかった。
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