表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/24

第四話 カリソメノ薬師


 王都セイランの街は、今日も賑わっていた。


 朝焼けに染まる石畳の通りを、行商人が荷車を引き、子供たちが元気に走り回る。

 人々の話し声や笑い声の合間に、ときおり物騒な噂や陰鬱な話題も混じる。そんな空気の中、終は何気ない風を装いながら情報を拾っていた。


「──王女様、最近まったくお姿を見せられないそうで……」


「病だとか。原因不明らしいですよ」


「王宮の医師たちも頭を抱えてるとか……」


 なんでもないさりげない会話。

 けれど、終にとってそれは明確な“情報”だった。


(やっぱり、王女の病は本当らしい)


 終は歩みを止めず、そのまま人混みに紛れた。

 心の中には、微かな好奇心と――退屈を埋める暇潰しとしての、軽い興味。


「……遊びのつもりだったけど、これは少し面白いかもね」


 やがて、彼の足は塔へと戻っていた。

 南区の一角、石造りの古びた建物。爆ぜたような匂いと薬品の香りが、すっかり馴染んでいた。


 扉を開けると、レアリアが机に突っ伏していた。


「……寝てる?」


「起きてるよー。今、目を開けただけ。つまり寝てたけど起きたところ」


 寝癖がさらにひどくなった青髪を揺らしながら、レアリアが振り向く。

 その顔には疲労の色と、妙に明るい好奇心が共存していた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「ふんふん。何でも来い」


「この国の王女……病気らしいけど。どう思う?」


 レアリアは、興味を引かれたように目を細めた。


「あー、それね。私も噂くらいは聞いたよ。体調を崩して寝込んでるみたいだね」


「原因は?」


「公式には『不明』だけど……個人的な推測を言うなら、“魔力過剰症”じゃないかな」


「魔力過剰症?」


「簡単に言えば、体内に抱え込んだ魔力の量が、自分で制御できなくなってる状態。元々の資質か、あるいは何かの外的要因で魔力が増大しすぎたのか……いずれにせよ、普通の治療じゃ無理だね」


「放っておけば?」


「内側から壊れていく。神経系、内臓、最後は意識の崩壊。それでも肉体は魔力で延命されることがあるから……地獄だね。生きてるけど、生きてない。そんな感じ」


「なるほど」


 終は無表情のまま頷き、すっと懐から小さな布包みを取り出した。

 包みを開けば、乾燥された珍しい草葉や、鉱石の粉末が現れる。


「この草は?」


「“蒼玻樹”の葉。魔力を吸着し、緩やかに分解する作用がある」


「……またなんでそんな高級素材を?」


「まあ、道中でちょっとね。あとは、君の実験台と薬品を少し借りたい」


「はあ……ま、いいけど。失敗したら爆発するから気をつけてね?」


「その時は、塔ごと吹っ飛ぶかな」


 軽く冗談を交わしつつ、終は手早く調合を始めた。


 殺し屋として培った毒物と薬品の知識。命を奪うために学んだ技術が、今、誰かを救うために使われる。

 それは皮肉なようでいて、彼にとっては自然なことだった。


 やがて、小瓶に入った淡い銀青色の液体が完成する。

 ほんのり光るそれは、魔力に反応する特殊な波長を帯びていた。


「完成。魔力吸着と分散効果、少量でも効くはず。副作用も、……まあ、致命的なものはないよ」


「……ほんとに、君は何者?」


「今は“薬師シュウ”ってことにしておいてくれるかな」


 終は瓶を懐にしまい、フードを被った。


「王宮に行ってくる。あとは成り行きに任せてみようかと思ってね」


「……君、本当に変な人」


「ふふ。褒め言葉として受け取っておくね」


 軽い口調のまま、終は塔を後にした。

 その背中を、レアリアはしばらくの間、目を細めて見送っていた。




▼お読みいただきありがとうございます!

ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!

感想や活動報告へのコメントも大歓迎です。


新連載につき、一挙20話(プロローグ含む)連続更新中。

毎日21時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ