第四十五話 骸骨の誇り
崩れゆく王宮の最上階。
我が主の意思を果たすべく、この身はここに在る。
ラディウスの体は、死した骨に漆黒の外套を纏い、異形の姿を保っている。
そんな死せる体だが誇りだけは、確かに息づいていた。
向かい合うのは、全身黒づくめの仮面をつけた大男。
人間の皮を被った獣のような男――自らを「タケっち」と名乗った。
大剣を構えたタケっちが、笑いながら吠える。
「んーなっ!! とおりゃあっ!! そーいやぁっ!!」
身の丈を超える大剣を、あれほど無造作に振り回す者をラディウスは数えるほどしか知らない。あの者の正体が気になるところだが、気にしている余裕はない。
振るう度に生まれる斬撃の波動が、石壁を砕き、崩落を呼び寄せる。
ラディウスは無感情に骨の盾を顕現させ、衝撃波を弾く。
だがその威力は一撃ごとに増していた。
(人間という種は、かくも無謀で、かくも面白い)
主よ。
この者は侮れぬ。
ラディウスが放った骨の弾丸を、タケっちは笑いながら斬り払った。
「なーっはっは!! お前めっちゃ強いやないか!! さては名のある化け物やな!?」
思わず、応えた。
骸骨に声帯はないが、魔力の共鳴で言葉は届く。
『……名ならば、ある。ラディウスだ』
その名は我が主が与えてくれた唯一の宝。
口にする度、胸の奥が熱を持つ。
「おっ!! 急に喋ったな!! いーねー!! ラディウスか!!」
タケっちは衝撃波を防がれようと意に介さない。
むしろ声をかけながら、さらに踏み込んでくる。
『……我が主が授けた名だ。貴様に砕けるものではない』
「そーか! 大事にせえよ! 俺も貰った名前、大事にしとるからな!」
言葉を交わす度に、この人間の気迫が増していく。
理解不能な戦闘意欲――だが、ラディウスに退く選択肢はない。
「ほな、見せたるわ! タケっち必殺――超究極旋風波っ!!」
振り下ろされた大剣が暴風を引き起こす。
ラディウスは即座に骨の城壁を出現させ、衝撃を受け止める。
砕ける骨。
だが貫かせぬ。
『――骨城壁』
呼吸の如く、術式を展開する。
骨の欠片が魔力で編み直され、再びラディウスの守りを固めた。
タケっちは笑った。
「ならばっ! 秘奥――豪炎武神斬!!!」
大剣が赤く燃え、刃が迫る。
ラディウスは右腕を振り、漆黒の焔を纏った大剣を顕現させた。
刃と刃がぶつかる。
灼熱の鉄を斬るような火花が散る。
『炎には焔を。黒焔は全てを焼き尽くす』
ラディウスの黒焔がタケっちの剣を這い、彼の身を焼こうとする。
「ぬあっちちちちっ!! くそっ……あっつぅっ!!」
大剣を地面に叩きつけ、火花を散らし、強引に焔を振り払う。
本来、力技で消せる性質ではないのに――この男は、それをやってのけた。
『……不可解な……』
ラディウスの骸骨に刻まれぬはずの感情が、微かに揺れる。
「よっしゃ……ほな次は……これやっ!!」
タケっちは大剣を地面に突き立て、気合と共に咆哮した。
雷光が走る。
魔力の奔流がラディウスの骸骨を震わせた。
「タケっち、バージョン2やっ!!」
閃光。
その一瞬、視界からタケっちが掻き消えた。
(速い――!)
背後。
気づいた時には、刃がラディウスの胴を貫いていた。
視界が割れ、ラディウスは崩れ落ちた。
だが。
(……私は……倒れぬ)
灰となったラディウスの骨が渦を巻き、形を取り戻す。
完全なる再生。
『――我が主に敵は渡さぬ』
「ズルいやないかっ!! ズルすぎるでっ!!」
タケっちは楽しげに大剣を構え直す。
ラディウスも骨の弾丸を空中に浮かべ、無数の砲列を築いた。
終わらぬ。
この男が立つ限り、私は終わらせぬ。
主のために――
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