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第四十四話 脆く、崩れ、壊れる


 ふわりと、柔らかい香りが辺りに漂っていた。


 血と土埃と崩れた石材の匂いに混じって、それでも微かに香る、彼女の髪から流れる花の香り。

 壁も天井も崩れ落ち、瓦礫と粉塵が覆い尽くす廃墟一歩手前の王宮。

 いつ崩壊してもおかしくない惨状の中で、終はエルリナの肩を借りるようにして歩いていた。


「……」

「……」


 沈黙。

 ただ瓦礫を踏む靴音と、遠くで響く戦いの爆音だけが二人を包む。


 グラディウスを倒した終だったが、予想以上に深い傷を負っていた。

 呼吸をするたび肺が痛み、肩口を貫通した剣傷はまだ血を滲ませている。


 それでも計画通りに事を進ませようとその場を立ち去ろうとした終だったのだが。


「そんな怪我で、どこへ行くつもり……?」


 エルリナは強引に終の腕を取り、自分の肩へと寄りかからせた。

 半ば引きずるようにして、王宮からの脱出を急がせる。


 彼女の横顔は悲痛に染まっていた。

 この数時間の間に、父である国王が悪魔に殺され、王国が誇る騎士団長は怪物と化し、自分も殺されかけ――そして死んだと思っていたシュウが目の前に再び現れた。


 聞きたいことは山ほどあるだろう。

 それでも終は何も言わない。

 終はどうでもいいことは軽口で話すが、本質的なことを自分から語ることは決してない。

 彼女もそれを知っているからか、沈黙が続いていた。


「……ねえ」

 

「ん?」


 ようやく絞り出した声。


「……」

 

「……」


 唇が震え、言葉を選んでいるのがわかる。


「……怪我、大丈夫?」


「ああ。たぶん」


「……そう」


「……」


 短い。

 それでいて、胸を締め付けるやり取り。


「……父が……殺されたの」


「……そっか」


「……」

 

「……」


 淡々と答える終。

 同情も、悲哀もない。ただの事実として。


「……知ってたの?」


「……うん」


「……」

 

「……」


 終は、嘘はつかなかった。

 事実は残酷だけれども。


「……あなた……殺されたと思ってた」


「……一応、生きてるよ」


「そうね……死にかけかしら」


「……そうかもね」


 話題が変わり、エルリナの口元に僅かな笑みが浮かぶ。だが、それはすぐに消える。


「……犯人は……グラディウスなの?」


「どうだろうね。……ただ、後ろに別の誰かがいると思う」


「……そう。……あれは……この前私が話した王国の秘密に関係があるの?」


「……たぶん。……でもあれだけだと歴史であり御伽話でしかない。……きっと犯人達はそれを実現する情報も入手したのかもしれない」


「……」


「……」

 

 また沈黙。

 瓦礫を踏む二人の足音だけが響く。

 


 そしてしばらく歩き、ようやく王宮の出口が見え始めた。


 外では兵士達がゾンビと戦い、民を守っている。

 終とエルリナも、今にも崩れそうな王宮を抜け出そうとした――その時だった。


 不気味な轟音。


 天井が悲鳴を上げ、崩落が始まる。


 瞬間、終はエルリナの背中を押した。


「きゃあっ!!」


 前へ飛び出すようにつんのめる彼女。

 その直後、頭上から無数の岩石と瓦礫が降り注ぐ。


 崩れゆく天井。

 粉塵と衝撃で視界が白く霞む。


 辛うじて建物の外へ飛び出したエルリナは、振り返る。


 そこには――


「シュウ……?……嘘よ。返事をして。シュウ……ねえ、私……あなたに言いたいことがあったのに……っ!!」


 瓦礫の奥に、彼の姿は見えない。


「シュウッーーーー!!!!」


 悲痛な叫びが、王都の夜空へと響き渡った。




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