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第四十三話 救世の黒鉄


 王都の空は、戦闘音と硝煙、そして血と死の匂いに満ちていた。


 スケルトンの骨が砕ける音、ゾンビが呻く声、悲鳴と怒号。

 崩れた建物の瓦礫、割れた石畳、炎上する家屋。

 その中で人々は必死に戦っていた。

 


「ちっ……キリがねえ」


 白髪を撫でつける隙もなく、魔導銃を放ちながら悪態をつく男がいた。

 リカオンのボス、バン・ヴァルター。

 灰色のスーツに黒いコート。シャツのボタンは全て留められ、ネクタイには少しの乱れがある。

 その瞳は冷静に戦況を読み取っていた。


 撃っても撃っても、ゾンビやスケルトンは地面から這い出てくる。

 祭壇で見たあの悪魔が生み出した地獄。その力の規模を改めて思い知る。


(あの時、撤退して正解だったな……しかし、厄介だ)


「っち! 一発で死にやがれってんだ!!」


 愛用の魔導銃はもうない。

 あれはシュウに渡した。

 今使っているのはスペアだが、魔力効率が悪く、威力も落ちる。

 ゾンビの頭を撃ち抜いても、一発では脳を破壊できずにのそのそと起き上がってくる。


「クソが……」


 周囲ではリカオンの部下たち、ヴェイルの面々も戦っていた。

 だが、疲労の色が濃い。

 このままでは――


(俺たちも全滅する……)


 焦りを隠し、マフィアのボスとして打開策を探る。

 撤退か、それとも一気に攻勢をかけるか。


 その時だった。


「ば、バンさん!! あっいや……リカオンボス、バン・ヴァルター様」


 ゼエゼエと息を切らせ、バルドラスが駆けてくる。


「なんだ、てめぇ……呼び方はどっちでもいい。で、どうしたっ!! こっちは忙しいんだっ!!」


 隣のゾンビの頭を撃ち抜きながら怒鳴る。

 バルドラスはビクリと肩を揺らし、近くの荷車を指さした。


「ゆ、ユナの嬢ちゃんが……アニキからの贈り物だって言って、あれを持ってきやした!」


(シュウから……?)


 バンは銃を撃ちながら、荷車の方へ視線を向けた。

 そこに積まれていたのは――


「こ、これは……!」


 魔導金属と機械が融合したような黒鉄色の兵器が並んでいる。


「ユナの嬢ちゃんが言ってました。アニキと知り合いの魔法なんちゃらさんが作った最新兵器だって……えーと、説明書には――」


「……こいつは、連射式魔導機関銃だ。それも帝国製のモンよりずっと質がいい」


「――あった、えー、“マシンガン”?あと、他にも“ライフル”?っつう名前……かと。……『魔法を使えない人間でも使える、魔導式の銃。魔法攻撃ではなく、充填された銃弾による物理攻撃で対象を粉砕する』……って……うー、ダメだ。難しくて頭痛くなってきた」


「もういい! 貸せっ!」


 バルドラスから説明書を奪い取り、最後のページを見る。

 そこには簡潔な文字で、シュウからの直筆メッセージがあった。


『“戦況が最悪になった時に使え。君たちなら使いこなせる”。 ――シュウ』


(……シュウ、お前ってやつは……!!)


 込み上げる感情を押し殺す。

 顔に出せば部下達の士気に影響する。

 俺はリカオンのボス、バン・ヴァルターだ。

 腑抜けた顔など、とうの昔に捨てた。


 説明書を懐にしまい、マシンガンを手に取った。

 重い。だが、頼りがいのある重さだ。


「お前らっ!! 救援物資が届いたぞ!!!」


 雷鳴のような声で怒鳴りあげる。


「各自、手に取れ!!! 一気に押し返すぞっ!!!」


 その声に、疲弊していた仲間たちの目が一気に光を取り戻す。


 バンはマシンガンを構えると、笑った。


「さあ――逆襲といこうじゃねぇか!!」


 その瞬間、魔導機関銃の銃声が王都に轟き渡った。


 

◇ ◇ ◇


 粉砕されていくゾンビ達。

 魔導機関銃から吐き出される弾丸は、スケルトンの骨を砕き、ゾンビの腐肉を切り裂き、頭蓋を木っ端微塵に粉砕していった。


 轟音。硝煙。血と腐臭の入り混じる空気。


 圧倒的な弾幕。破壊の嵐。


 それは王国の歴史、いやこの世界の戦争の在り方すら変えてしまう瞬間だったのかもしれない。

 


 マシンガンを構えるバンの後ろで、ヴェイルやリカオンの面々も弾幕を張る。


「おらぁ!! 骨だるま共がぁぁっ!!」


「こっち来るんじゃねえ!! 食われたくねえ!!」


「撃て撃て撃て撃てぇっ!!」


 仲間たちの悲鳴混じりの怒号が響く。

 


 王都内の広場では、兵士達が民を守り、避難誘導をしていた。

 避難民の列が整い、王都の外へと続く道を兵士が先導する。

 そして順調に外へと避難していく。


 

 だが――


 突如として、一人の騎馬兵が駆けてきた。


「魔物だっ!! 魔物の大群が……王都へ……すぐそこまで来ているっ!!」


 その声は兵士達に恐怖を植えつけた。

 動揺の波が民衆へと伝わり、悲鳴と泣き声が広がる。


 避難を進める兵士達は、すぐさま判断を下す。

 民を連れて再び王都内へ戻り、城門を閉ざす――。


 確かにそれは賢明だった。

 王都の城門を閉じれば魔物達は簡単に王都の中へは入れない。さらには民衆を庇いながら戦わなくて済む。

 


「ん? 避難してたはずの奴らが……戻ってきていやがるな?」


 バンはすぐに気付いた。

 戦況が変わる、と。


 そのすぐ後、血と土に汚れた鎧の騎士が駆け寄ってきた。


「……あなたが……この特殊部隊の責任者ですか?」


 荒い呼吸で問いかける兵士に、バンは鼻で笑った。


「……なるほど、ものはいいようだな。……まあ、そうだ。責任者だ」


「魔物の大群が接近しています……今は王都内に戻る方が安全と判断しました。それに……ゾンビ達の出現ペースも、先程より落ちているようです」


「……確かにな」


 バンも感じていた。

 さっきまで無限に湧いていたゾンビ達の勢いが落ちてきていることを。


(シュウ……お前が、何かやってくれてんだな……。何から何まですまねえな)


 胸の奥に、一瞬だけ熱い感情が過る。

 だが、感傷に浸る時間はない。


「……で、この後はどうする気だ。王都に戻ったところで、ジリ貧なのは変わらねえだろうが」


 意地悪く笑うバンに、兵士は躊躇いながらも言った。


「……一つの賭けですが……王都地下に、緊急避難用の洞窟が存在します。そこに人々を避難させようかと」


「……ほう、それは面白いじゃねぇか」


 バンはすぐに理解した。


 その地下洞窟が、例の祭壇の地下だということを。


(……そこは、悪魔が召喚された場所だ。だが今は、いないか?……おそらく王宮でシュウと戦ってる最中だろうよ。……皮肉だな、悪魔の住処に逃げ込むとはな)


 じっとしている時間はない。

 誰かが動かなければならない。

 全員が助かる道など、とうに閉ざされている。


(……もしもの時は、俺たちだけでも国外へ脱出するしかねえな)


 そう考えて、心を決めた。


「よしっ!!」


 バンはマシンガンを肩に担ぎ、怒号を響かせた。


「お前ら!! 作戦変更だ!! 一般人を地下洞窟へ避難させる!! 各自、兵士と連携してゾンビ共を殲滅しろっ!!!」


「「「了解っ!!!」」」


 整然とした返事が返る。

 それはまるで一糸乱れぬ軍隊のようで――

 そして、その背中は、紛れもなくバン・ヴァルターという男の生き様に憧れた者達の姿だった。




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