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第四十二話 決別


 信じられなかった。


 目の前に立つその人影を、エルリナは何度も瞬きをして見つめる。


(シュウ……?)


 あの時――

 胸を貫かれ、血を流して動かなくなった。死んでしまったはずの人。


 けれど今、確かに彼はそこに立っていた。


 驚きと戸惑いで言葉を失うエルリナの視界に、別の影が映る。

 それは――


(……なに、あれ……)


 黒い鱗に覆われ、二本の角を持ち、背中には裂けた翼。

 尾をうねらせ、まるで悪魔か竜のような禍々しい怪物。


 次の瞬間、その怪物が禍々しい黒の大剣をこちらへと投げ放った。


(……あ)


 死ぬ、と思った。


 しかし――


「っ……!」


 刹那、視界を遮る影があった。

 鈍く重い音。嫌な感触が伝わってくる。


 シュウだった。


 彼がエルリナの目の前で、大剣をその肩口から背中まで貫かれたまま立っている。


「し、シュウ……! なんで……っ!」


 震える声で問いかけるエルリナに、彼は血を吐きながらも微笑んでみせた。


「……僕の方が……君より……強いからね」


 倒れない。

 膝をつくこともなく、貫かれたまま立ち尽くしていた。


 そして、ふっと口元を歪めた。


「……終わりにしようか、騎士団長」


 その言葉に、エルリナは息を呑む。


(騎士団長……? この怪物が……?)


 怪物――否、騎士団長グラディウスは怒りと憎悪の炎を燃やし、終を睨みつけた。


『……なぜだっ! なぜ貴様如きがっ!!』


 もはや人の面影はない。

 角はさらに太く伸び、翼は破けた布のように裂け、全身の黒鱗にはひび割れが走り、そこから黒い靄のような魔力が噴き出している。


 魔獣のように咆哮し、四足歩行で突進してきた。

 額の角で突き刺し、殺すつもりなのだ。


(シュウ……逃げて……!)


 心の中で叫ぶ。けれど、彼は変わらない。


 その表情は王宮の自室で見せたあの時と同じ、余裕と自信に満ちたものだった。


「僕はね。実は、剣は得意じゃないんだ」


 淡々と言う彼は、懐から古びた黒銀の銃――魔導リボルバーを取り出した。


 ――ズガンッ!


 魔弾が放たれ、怪物の肩関節を砕く。

 しかし勢いは止まらない。


『グッ、コンナモノデ、オレヲ……!!』


 尚も迫る怪物に、彼は冷ややかに引き金を引き続けた。


 ――ズガンッ、ズガンッ!


 魔弾は次々と怪物の関節や鱗の隙間に突き刺さり、鱗や硬い甲殻を剥がしていく。

 それでも怪物は止まらない。


「……王女様。魔獣を仕留めるには、どこを狙うのが効果的だと思う?」


 突然問われて、声が出ない。


 そんなエルリナを見て、彼は微かに笑った。


「答えは――ここだよ」


 銃口を向ける。

 放たれた弾は回転しながら疾り、これまでとは比べ物にならないほどの貫通力で怪物の胸元へ突き刺さった。


 パリン――


 まるでガラスが砕けるような音が響いた。


 怪物の体内にある魔石が砕けた音。


 ひび割れた鱗が崩れ落ち、黒い靄が溢れ出す。


 怪物は勢いそのまま倒れこみ、終の目前で転がった。


「さようなら、騎士団長」


 彼の静かな声に、魔獣グラディウスは悔しそうに顔を歪めるだけだった。


 ――そして、全てが塵へと還った。


 エルリナはただ、その場に立ち尽くしていた。




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