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第三十八話 冷酷な王命


 王都の中心にそびえる王宮は、もはやかつての威光を失っていた。


 正門前には、ゾンビやスケルトンと死闘を繰り広げた兵士たちの血痕や折れた槍、砕けた剣が散乱している。

 乾き始めた血が鉄錆の臭いを漂わせ、生きた人間の姿はどこにもない。

 生き残った者たちは既に王宮を放棄し、逃げ去った後なのだろう。


 石造りの階段にも砕けた甲冑や割れたステンドグラスの破片が散乱している。

 廊下に転がる兵士たちの亡骸は、どれも無惨に喰い破られ、肉を削がれていた。


 そして――。


 王宮上層階。

 そこには庭園が広がっていた。


 空中庭園のように張り出した作りで、王都を一望できる見晴らしの良い場所。

 いつもなら色とりどりの花々が咲き誇り、貴族や王族たちの憩いの場となっていたはずだ。

 だが、今そこに咲いているのは黒ずんだ血の染みと、踏み荒らされた花壇、折れた剣や矢筒、そして兵士や亡者たちの亡骸だった。


 さらに上の階には、王族が暮らす居住区や式典のための大広間がある。

 しかしこの庭園での激戦を越えてまで、誰があの階へ辿り着けただろうか。

 


 そして、その庭園の中央に。


 二つの人影と一つの異形がいた。


「ど、どういうことだ! 俺は、俺が……お前の主人のはずだぞ!! ぐうぉっ!!」


 怒声と共に花壇へと投げ捨てられる男。

 騎士団長、グラディウス・バルネス――かつてはこの国の誇りと呼ばれた男。

 両腕を切り落とされ、鋼の胸当ては切り裂かれ血に染まっている。

 その姿は王国最強の騎士というより、血塗れの哀れな亡者だった。


 そんなグラディウスを無言で見下ろす二つの影。

 一人は、祭壇にいた巫女装束の少女。

 そしてもう一つは、漆黒の外套に骸骨の顔を持つ異形――悪魔。


 彼らはグラディウスの叫びに応えず、ただ何かを待つように静かに立っていた。


 ――コツン、コツン。


 響き渡る靴音。

 戦火で砕けた石畳を踏みしめ、ゆっくりと歩いてくる影があった。


 月明かりに照らされて現れたその人物は、血の気のない白い衣装を纏っていた。

 薬師としてのシンプルで清潔な外套。

 そこに立っていたのは、紛れもなく“薬師シュウ”だった。


「やあ、騎士団長閣下。奇遇ですね。こんなところで会うなんて」


 その声に、グラディウスの瞳孔が震える。


「お前は……薬師……シュウ……ッ」


 終は柔らかく微笑む。


「どうしたんですか? まるでゾンビでも見るかのような顔をして」


「……生きて……いや、貴様……生きていたのか……っ!」


「……うっ、胸が……なんてね」


 わざとらしく胸に手を当て、おどけて見せる終。

 その仕草にグラディウスは憎悪に満ちた瞳で睨みつける。


 その横で、巫女と悪魔が膝をつき、臣下の礼をとる。


「シュウ様。任務、完了致しました」


「ご苦労様。その仮面、もう取っていいよ」


「はい」


 巫女は静かに獣の被り物を外す。

 現れたのは、銀色のショートボブに切り揃えられた髪。

 灰色の瞳を持つ、透き通るように無表情な少女――ユナだった。


「な……お前は……!」


「ふふ。一度くらいは見たことありますかね。僕の助手のユナです」


 ユナは無言でグラディウスを見下ろしたが、その瞳に感情はない。

 まるで石像を見つめるかのような無関心さだった。


 グラディウスはその意味を悟る。


「き、貴様……俺の計画を……乗っ取ったな……!!」


「……乗っ取った? それは違うかな」


 終は軽く肩をすくめる。


「そもそもあの儀式も、全てが演技だからね」


「演技……だと……!? どういうことだ!!」


 地面に這い蹲ったまま、怒鳴り散らすグラディウス。

 終は悪魔へと目をやり、小さく告げる。


「頼めるかな」


『御意』


 悪魔はゆっくりと立ち上がり、グラディウスの胸倉を掴む。

 骸骨の指が頭部へ伸びると、そのまま脳へ指を突き立てた。


「ふふ……夢の世界へ行ってらっしゃい」


 グラディウスの視界が白く塗り潰される。


 ――そして知る。


 終たちは今日よりも遥か以前に儀式を完成させていたことを。

 悪魔と共に、既に王国を支配するための布石を打ち終えていたことを。


 その真実は、一瞬でグラディウスの精神を打ち砕いた。


 次の瞬間、悪魔は無造作に彼を地面へと放り投げた。


「……な、なぜ……王国の……秘密を……知っている……」


 血まみれで顔を上げ、終を睨むグラディウス。


 だが、終は指先を唇に当て、無邪気に笑った。


「さてね。それは……秘密だよ」


 悪魔はその横で静かに膝をつき、再び臣下の礼をとった。


「約束通り褒美をあげよう。君は今日から“ラディウス”。魔王ラディウスと名乗るといい」


『有難き幸せ』


 骸骨の顔が恍惚に歪む。

 もはやそれは、悪魔ではなく魔王ラディウスとして生きる存在だった。


「そして、君に体をあげたいんだが……その前に一つ頼まれごとをしてくれるかな」


『なんなりと』


 恭しく頭を垂れるラディウスに、終はなんでもないことのように微笑み、告げた。


「――国王を殺してきてくれ」




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