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第三十六話 ショータイム


「……悪魔の召喚、だと」


 グラディウスが放ったその言葉に、バンは声を潜めながらも驚愕を隠せなかった。

 対してグラディウスは愉悦の笑みを浮かべ、指で祭壇を示す。


「ほら、始まるぞ。神の再臨? 違うな。悪魔による――殺戮のショーさ」


 冷たい響きが地下空間に落ちる。

 終とバンは無言で祭壇を注視した。


 祭壇では儀式が着々と進んでいた。

 巫女は禍々しい壺から掬った黒紫色の液体を、中央の大釜へと静かに注いでいく。

 その背後、広間では司祭と信徒たちが熱に浮かされたような顔で、超魔薬へと呪詛のような祝詞を捧げ続けていた。


「……あの巫女は俺の部下さ」


 グラディウスが低く笑う。

 その言葉の直後、巫女は懐から干からびた動物の何か――おそらくは儀式の触媒だろう――を取り出し、大釜へと滑らせるように放り込んだ。


 司祭は気づかない。

 祝詞を唱え終えた彼は、恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりと祭壇中央へと進む。

 そして巫女に赤黒い結晶――超魔薬ヴィルノスを手渡した。


 巫女は祈りを捧げるような仕草を見せ、そして――

 大釜へと、それを落とした。


 ――ゴゥン……


 鈍く低い音が洞窟全体に響き渡る。

 同時に紫電のような魔力の奔流が走り抜け、壁際の松明が一斉に吹き消える。

 漆黒の闇が辺りを支配した。


 しかしその中心だけは淡く妖しい光に照らされていた。

 大釜から溢れ出した黒煙が、蠢くように天井へと昇り、そしてゆっくりと形を変えていく。


 ――人型。


 ボロボロの外套を纏い、骸骨のような顔面を覗かせる異形の存在。


『……我が主人よ。なんなりと……ご命令を』


 地獄の底から響くような、耳障りで不快な声。

 その声に、司祭は歓喜の涙を流しながら頷く。

 神が自分に跪いている。

 それだけで、彼の脳は麻痺するかのように思考は停止していた。


「くっくっく……殺れ」


 グラディウスの命令。

 悪魔は即座に応じた。


 シュン――。


 鋭い風切り音と共に、悪魔の腕が振り抜かれる。

 次の瞬間、司祭の体は斜めに裂け、その場に崩れ落ちた。


「っ……!」


 息を呑むバン。

 しかし終は無言でその光景を観察するのみだった。

 無表情に仮面の奥で思考を巡らせる。


『我が主人よ。ご命令通りに』


 悪魔は膝をつき、再び恭しく頭を垂れる。


「はっはっはっは!! 言い伝えにある通りだ!!」


 狂喜するグラディウス。


「巫女を通じて超魔薬にも細工をしておいたのだよ。そう、俺の血液を含ませた。……やつは魔王の使い魔……! これで俺は最強だ!!」


(……なるほどな。それだけがずっと引っかかっていた。……魔王の使い魔……か)


 終の思考は鋭く静かに回る。


 興奮するグラディウスが叫ぶ。


「さあ――お前の力を解き放て! 魔王の軍勢を呼び覚ますのだ!!」


 悪魔はゆっくりと腕を広げ、黒い霧のような瘴気が空間全体へと広がっていった。

 そして――


 ギギギ……ギシギシ……


 耳障りな軋む音と共に、地面から無数の骨が這い出してくる。

 それは人の骨。

 動き出す度に鈍く鳴る骨と骨の摩擦音が、地下空間に響き渡る。


 骸骨兵、スケルトン。

 そしてその奥からは腐敗した肉を纏う影――ゾンビも蠢き始めていた。


「っははははは!!! 見ろ! これが俺の力だ!! この軍勢で……王都を……いや、この世界を覆い尽くしてやる!!!」


 狂気の雄叫びが洞窟に響き渡る。

 終は静かに目を細めた。


(“ショータイム”……ね)




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