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第二十九.五話 タケっち、地下水路に吠える


 タケっちは今、王都北門近くにある王国騎士団の詰所にいた。


「よっしゃー!! 今日も依頼や依頼!! タケっち頑張っちゃうでー!!!」


 兜の中で、逆立つ赤髪が暴れている。いや、外からは全く見えないのだが、本人は気合いを入れたつもりだった。


 依頼主は王国騎士団。内容は、王都西区の地下水路で起きている異変の調査。

 最近、騎士団が討伐に向かったものの死者が出たという。危険度はB級。上から三つ目のランクであり、一般人から見ればかなり恐ろしい任務だ。


 タケっちは依頼書を受け取り、大柄な体を揺らしながら意気揚々と現場へ向かった。


 


 地下水路の入り口前には、重装備の王国騎士団が待機していた。


「おうおう!! みんな元気しとるかー!? タケっち参上やで!!」


 そのハイテンションに騎士達は面食らう。

 だがすぐに、「これが噂の冒険者か」と頷き合い、笑顔で迎えてくれた。


「あなたが今回、護衛兼調査で派遣された冒険者殿ですね。我々は王国騎士団第二小隊です。一緒に来てくださると心強い」


「おうとも!! タケっちに任せとき!! みんなまとめてタケっちが守ったるでぇ!!」


 頼もしい声に、騎士達も少しだけ緊張がほぐれる。

 そして数人で地下水路へと足を踏み入れた。



◇ ◇


 地下水路は薄暗く、湿った空気が重く淀んでいた。

 足元には濁った水が流れ、遠くでポタリポタリと水滴の落ちる音が響いている。


「にしても……ここ、なんか臭いな!! 騎士さん達、よくこんなところで仕事できるな!?」


 騎士の一人が苦笑いで返す。


「まあ……慣れですね。それに、こういう地下水路にはスライムやラットやら、討伐対象もよく出るので……」


「なるほどなー! そういう意味ではここは騎士さんたちの腕の見せ所やな!!」


 そんなことを話しながら奥へと進む。


――


 途中でタケっちは、ふと騎士達に問いかけた。


「そういや騎士さんよー。あんたらの団長さんって、どんな人なん?」


 質問を受けた若い騎士は目を輝かせた。


「騎士団長グラディウス様ですか? あの方は……すごい方ですよ。

 この国一の剣の使い手で、筋肉だって凄くて。

 でもそれだけじゃなくて、部下思いで優しい方です。……俺たちが訓練で倒れた時も、わざわざ水を運んできてくれたことがあって」


「へー! めっちゃいい人やんけ!! 偉い人ってみんな冷たいかと思ってたけど、そんな人ばっかりやないんやなぁ!!」


 タケっちは兜の奥で、にかっと笑った。


「はい。俺たち、グラディウス様についていくって決めてるんです」


 そう言った騎士の顔は誇りに満ちていて、その言葉に嘘はないとタケっちは感じた。


(なんやええ話聞けたな……。やっぱり筋肉は正義や!!)


 と、訳のわからない感動を覚えるタケっち。



――


「そういや今回の異変って何が起きたんや?」


 空気が和んだところで、タケっちは核心を突いた。


「……実は、死体が見つかったんです。首を……捩じ切られていたと聞きました。

 魔獣か……あるいは、魔人か。いずれにせよ、人間の力ではありません。」


「なんやて……!!」


 兜の奥でタケっちの表情が引き締まる。

 胸の奥で、燃えるような感覚が沸き上がる。




 そんな緊張感の中、歩みを進めていると、壁際に何やら怪しげな紋章が刻まれているのをタケっちが見つけた。


「おい、これ……なんや?」


 騎士が松明を近づけると、それは魔法陣のようにも見える。中心には奇怪な文字が並び、赤黒い染みがこびり付いていた。


「悪魔召喚の痕跡……でしょうか」


「悪魔ぅ!? こわっ……でもテンション上がるわ!!!」


 訳のわからないことを言いながらも、タケっちはしっかりと周囲を確認する。

 しかし、奥まで探索したものの、結局何も出てこなかった。



 地上へ戻ると、騎士団の隊長がタケっちに礼を述べる。


「今回は調査だけのつもりでしたが、あなたのおかげで安全に確認ができました。本当にありがとうございます」


「おうとも!! タケっちは正義の味方やからな!! また呼んでくれてもええんやでー!!」


 快活な笑顔で拳を掲げるタケっちを見て、騎士達は「頼もしいな」と笑顔を浮かべるのだった。



 そうして、タケっちの冒険者としての一日が終わりを告げた。


 地下水路を背にして歩く大柄な体。

 兜からほんの少しだけはみ出す赤髪が、沈みゆく夕陽に輝いていた。




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