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第二話 黒の小路


 リヴェルタ王国の王都セイランには、昼と夜が共存している。

 陽の光に照らされた石畳の街路には、華やかな衣装を纏った貴族が優雅に歩き、商人たちの呼び声が空に響く。だがその裏では、影を踏まぬよう歩く者たちの通りも存在する。


 終が向かったのは、そんな王都の裏通りにある、薄汚れた雑貨屋だった。看板は色あせ、軒先には売り物なのかゴミなのか分からぬ品が雑然と積まれている。だが、終は戸惑いもせず、その扉を開けた。


 軋む音と共に、埃の匂いが鼻をつく。


「……やれやれ。変わらないね、こういう場所の空気ってさ」


 誰に聞かせるでもなく、ぼそりと呟きながら奥へと進むと、カウンターの奥に一人の男が座っていた。フードの影に顔を隠した小柄な男だ。その口元だけが見え、まるで作り物のように静かに歪んだ笑みを浮かべていた。


「なんだい。旅人さんにしては、ずいぶんと勘が良い」


「旅人って呼び方は便利だよね。まぁ、当たらずとも遠からず。……君が“話が早い”って聞いたからさ」


 終は笑みを浮かべながら、懐から一輪の花を取り出した。

 黒に近い紫の花弁。異国の空気を宿したその香りは、この街には似つかわしくない。


 情報屋はその花に視線を落とすと、一瞬だけ瞳が細くなった。


「……それは?」


「知らないの?」


 終は軽く首を傾げて見せた。


「君たちが欲しがってる物だと思ったんだけど。……違ったかな?」


 その言葉に、情報屋はしばし沈黙し、やがて深くため息をついた。


「……参った。降参だよ。まさか、こんな風に持って来られるとはね」


「良かった。通じる相手で助かるよ」


 終はにこやかに微笑み、花をカウンターに置いた。情報屋はそれを指先で転がしながら、わずかに口元を緩めた。


「今日のところは、この花を代金として受け取っておこう。……聞きたいことは?」


「王都セイランの“裏”について、一通り頼めるかな」


 そう答える終の声に、情報屋は小さく笑い、語り始めた。


 スラム街の勢力図。マフィアや盗賊ギルドと王宮の裏繋がり。神聖国の密偵の動き。そして、情報の断片が紡がれていく中で、終の興味を引く一言が漏れた。


「そういえば……最近、ちょっとした噂があってな。南区の外れにある古びた塔に、変人が住み着いてるらしい。女で、魔法使い。元々は魔法大学の出身だったそうだけど、なんでも追放されたとか。塔の中は薬品の臭いと爆発音だらけって話さ」


「へえ……面白そうだね」


 終は軽く笑い、椅子の背に体を預ける。


「変人って、僕はわりと好きだよ」


「気をつけるんだな。触れれば吹き飛ぶかもしれんぞ」


「それも含めて、面白そうだって言ってるんだよ」


 冗談めかした声に、情報屋は笑みを返した。


「ま、死にはしないか。お前みたいな奴は、な」


 その言葉に、終はわずかに目を細め――そして、静かに席を立った。


「今日はありがとう。また来るよ。……次は、別の手土産を持ってくるね」


 情報屋はその背を無言で見送り、テーブルの上の花を見つめたまま、ふと呟いた。


「……やっぱり、ただの旅人じゃないな。あいつは」


 塔に住まう異端の魔法使いと、異世界からやってきた“元”殺し屋の邂逅は、もうすぐそこに迫っていた。




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