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第二十八話 告白


 今日は朝から体調が良かったのに。


 それは、急にやってきた。


 自分では抑えきれない、魔力の奔流。

 全身を内側から掻き乱すような、荒れ狂う黒い渦。

 


 あのいけ好かない男。

 ――シュウ。


 彼の持つ不思議な薬で、膨大な魔力は制御できていたはずだった。


 なのに。


 今、私は再び魔力に体を侵されている。


 これは……私の魔力じゃない。


 どこかからやってくる魔力。

 底知れぬほど禍々しく、冷たい。

 その正体を感じたとき、胸の奥が凍りついた。


 邪悪。

 邪な魔の気配を孕む、悪しきエネルギー。


 ……。


 今になってわかる気がする。


 この国の禁じられた歴史。

 隠され続けてきた罪。

 受け継いできた王家の記憶。


 話さなくちゃ。


 ――あいつに。



 


 ぼんやりと天井を見つめていると、病室の扉が開く気配があった。


「……シュウ。……来たのね」


「やあ、あまり元気そうじゃないね」


 その声は、いつも通りだった。

 にへらっと笑い、こちらの苦悶すら面白がっているような無遠慮さ。

 そして、淡々と薬の瓶を差し出してくる。


 無言で受け取り、瓶の蓋を開ける。

 ほのかに薬草とアルコールが混じった匂いが鼻腔を抜けた。

 ……こんな匂いすら、今は安心できる。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 薬を飲むと、胸を圧迫していた黒い奔流が、ほんの少しだけ遠ざかった気がした。


 起き上がると、シュウはすべてを見透かすような笑みを浮かべて、こちらを見ていた。


 そしてその隣には、見慣れない大柄な青年が笑顔で立っていた。

 燃えるような赤髪が、部屋の明かりに照らされてきらきらと光る。

 革の鎧の下に隠しきれない分厚い筋肉。

 ただの護衛ではない。

 シュウのあの強さも含めて、きっと何かがある。

 なんだか賑やかそうな人だという印象を受けたが、起きたばかりの頭ではうまく考えがまとまらない。


「ああ、この人は、僕が雇っている冒険者……ってことにしてるけど、ただの友達だから、心配しないで」


 すると赤髪の青年が、弾けるような声を上げた。


「ぬおっ! シュウ……お前、このタケっちのことを友達と呼んでくれるのか! それはめっちゃ嬉しいな!! じゃあ、俺のことを王女様に紹介してくれるか!? そうじゃないと、王女様、タケっちのこと、なんて呼んだらいいかわからんくて困るやろうし! なあ、頼むで、シュウ!!」


 あまりの勢いに、思わず笑いがこぼれた。


「こほっ……けほっ。ふふ。……シュウ、あなたに友達なんていたの?」


「……友達なんて――」


「王女様もシュウの友達なんやろ。 俺もシュウの友達やから、王女様は俺の友達ってことになりますね! いよっ!めでたい!! 今日は友達記念日や!!」


「――おい! 僕の言葉を遮るなよ!」


「うぉ! シュウが珍しく怒ったぞ!! うわーい! 逃げろー!!」


 走り回る赤髪。

 不貞腐れる黒髪。


 その光景が可笑しくて、可愛くて、止まらない。


(……ああ。……なんだろう。こんなにも笑えるなんて……)


 先ほどまでの苦痛が嘘のように遠のき、体が軽くなる。


 走れる。


 そう思った瞬間、ベッドから立ち上がり、赤髪が逃げ込んだ自室に隣接する庭園へと駆け出した。


 頬を撫でる風が、涙をさらう。


(走れる……! 私……走ってる……!)


 振り返ると、シュウが呆けた顔でこちらを見ていた。

 珍しいその表情が、なんだか嬉しかった。


 彼はすぐにその表情を消し、少しだけ眉を寄せて言った。


「……平気なのか?」


「ええ、なんともないみたい」


 自分でも信じられないくらい、体が軽かった。


 シュウのおかげ。

 ……いや。


 彼がここにいるから。

 ……きっとそれだけで、私は。


 息を整え、決意を込めて彼を見た。


「シュウ。……聞いて欲しいことがあるの」


 彼は黙ってこちらを見つめ返す。



 震える指先を握り締め、エルリナは話した。


 王家に伝わる伝承を。

 先祖の罪を。

 邪なる者との戦いの記憶を。


 そして、予言された未来。魔を統べる者の復活と、立ち上がる者達への道導を。



 この国を覆う運命の輪が、今、音を立てて回り始めようとしていた。




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