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第二十一話 丘の上の密談


 王都セイランの街並みが、まるで一枚の絵画のように夜に浮かび上がる。


 場所は王都外周の南側に位置する小高い丘の上。風が通るその場所には、誰が置いたのか年季の入った木製のベンチが一つ。

 すぐ下には黒く光る馬車が停まり、御者らしき紳士が静かに姿勢を正して待っている。衣服はシックで品のある仕立て。彼のような者がこの丘にいること自体、何かの違和感を感じさせた。


 ベンチには、ふたりの男の姿。


 ひとりは白髪を後ろに撫でつけ、サングラスをかけた年上の男。もうひとりは黒髪の、優しげな雰囲気を纏った青年だった。


「……見事だろう? ここからなら、我々が住まう王都が一望できる」


 白髪の男──バン・ヴァルターが、隣に腰掛ける黒髪の青年に語りかける。


 見下ろす王都は四つの区画に分かれていた。煌びやかな王宮を中心とする北区には貴族街が広がり、その壮麗な建物群が月明かりに照らされて美しく浮かぶ。西区の商業街には、まだ営業を続けている露店や酒場の灯りがともり、活気の名残を見せている。東区には教育と信仰の施設が並び、静かな威厳があった。


 そして手前の南区。一部は王都の“影”とも呼ばれるその区画は、街並みこそあるものの、建物はくたびれ、灯りはまばらだった。中心に近い北側はまだ明るさを保っているが、南に行くにつれ光が消えてゆく。それはまるで、社会というものの構造を象徴しているかのようだった。


「……さて。君に話があったんだが、その前に一つ聞いておくべきことがある」


 バンがふと問いかける。


「なんでしょうか。僕は下っ端なので、何もわからないですよ」


 青年──シュートは、微笑みながら肩をすくめた。だがその顔は、どこか楽しんでいるようにも見える。


「……それで、変装のつもりか? ワタシからすればバレバレなんだがな。……なあ、シュウ。いや、それとも“レイス”……と呼ぶべきか?」


 白髪の男が口元で笑う。


 終は数秒沈黙したのち、茶目っけたっぷりに笑い返した。


「……なんだ。バレてたのか。バンさんも人が悪いなあ。てっきり僕は、ヴェイルの下っ端にマフィアボス直伝の奥義でも授けてくれるのかと思ったよ」


 その軽口に、バンは額に指をあて、ため息をつくように首を振る。それはまるで「なぜワタシはこいつと手を組んでしまったのだろうか」とでも言いたげな様子だった。


「……まあ良い。きっと君のことだから、ヴェイルが機能しているか観察していたのだろう。レイスの正体がこんな優しそうな青年だとは、誰も思わないだろうしな」


「さすが、バンさん」


 終は相変わらずの微笑で返し、視線を王都に移す。バンもまた、懐から銀製のシガレットケースを取り出し、一本のタバコに火を点けた。ゆっくりと吸い込み、煙を空に放つ。


「……何から話すべきか。……ワタシが君と手を組んだ理由から話すとするか」


「それは興味深い」


「……君のことだから、わかっているのかもしれないが。念の為だ。表向きは薬の流通。そして裏としては、例のブツ。……だが本命は──君が王宮に潜入している。……と、いうことだ」


「ふふ。何を探って欲しいんですか」


「ふ。話が早いと助かるよ。どうにも裏の人間は頭が足りねえからな」


 ふたりは、何かを企む者特有の、底の読めない笑みを浮かべて見つめ合う。


「……王宮には隠された秘密がある。君も嗅ぎ回っていたようだから、そこまでは知っているな」


 バンの目が鋭く光る。


 終は、少しだけ首を傾けて笑った。


「……ええ。僕が調べた感じだと、王宮で働く人間は記憶を改竄されたか、忘れるように仕向けられてますね」


「……だろうな。汚ねえことは揉み消す。“奴等”のやり口だ」


 バンは眼下に広がる王宮を睨みながら、吐き捨てるように言った。


「“奴等”というのは?」


 終の問いに、バンは短く息を吐いた。


「……あの“男”の話には続きがある」


「聞いても?」


「もちろんだ」


 バンは煙草の火を指先で軽く弾いて落とし、次の話を始めた。


 この王都で、誰も知らない裏の話を──




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