表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/83

第十三話 忠誠心


 パシッ――と乾いた音が拠点の地下空間に響いた。

 鋭いステップ、地を滑るような動き。ユナの足はわずかに地面を蹴るだけで、風のように位置を変える。


「お、おうっ、速え……!」


 対峙するダミ声の持ち主は、スキンヘッドの男、バルドラス。

 それなりに鍛えられた腕から繰り出される斧をぶんと振るうたびに空気がうなり、拠点の地下に設けられた訓練場の土が舞い上がる。

 だが、ユナはそれをひらりとかわした。


 視線、姿勢、間合い――すべてが正確。小柄な身体は自身より遥かに大きい目の前の男に一切ひるむことなく、逆に圧を返すように動く。


「へ、へへっ……でもなァ……当たりさえすりゃ、こっちのもんよッ!!」


 バルドラスが声を張り上げ、突進してくる。

 その勢いは強く、まるで猪のよう。まともに食らえば一発で終わる威力だ。

 だが、ユナは無表情のまま――一歩踏み込んだ。


(来る……右、から)


 彼女は重心を微かに傾ける。そして、次の瞬間――


「っとと……!?」


 バルドラスの斧が空を切る。ユナはわずかに肩を沈めてすり抜け、肘で脇腹を打ち抜いた。

 衝撃にバルドラスの身体がよろめく。


「ぬおっ!? だ、だがまだ……!」


 ふらつきながらも、バルドラスは大声を上げ、振り返りざまに大きく踏み込んだ。

 彼の全体重を乗せた斧が猛烈な勢いで振り下ろされる。バルドラスの股下に位置するユナに逃げ場所はない。


「いよっしゃあぁぁあッ!!」


 まだ決着がついていないのに、バルドラスは喜色満面の笑みで、勝ち誇ったように吠えた。


 だが、その直後。


 ユナは、すり抜けるような動きでバルドラスの背後に回り込み、片膝を使って彼の重心を崩す。

 巨体がぐらつき、反応する間もなく――


「ぅわっ!?」


 どさり、と鈍い音。

 バルドラスは仰向けに倒れ、目を白黒させる。その首元には、ユナの細い手が持つナイフが突きつけられていた。


 静寂が訓練場を包む。


 ユナは何も言わず、ただその灰色の瞳で相手を見下ろしている。


「勝負あり。そこまでだ」


 その場を見守っていた終――レイスが静かに告げた。

 ユナは一拍置いてからナイフを引き、身を翻すようにして距離を取る。


「ア、アニキぃぃぃ……! 嬢ちゃん、怖すぎっすよぉぉ……!!」


 ようやく言葉を発したバルドラスは、情けない声を上げながら地面に倒れたまま泣き言を漏らしていた。


◇ ◇ ◇


(戦闘技術……かなりのものになった)


 レイスは無言のまま、戦いの一部始終を思い返していた。


(正直、ここまでやれるとは思っていなかった)


 スラムで育った少女――ユナ。

 生き抜くために身につけた動き、それに加えた知識と技術。

 レアリアの教育と、自分が与えた実戦形式の訓練。それが今、しっかりと形になっている。


(読み書きは元々ある程度できていた。生きるために必要だったからだろう。それが今じゃ、薬の調合法から毒の見分け方、難解な暗号の解読まで、常人じゃ到達できない域にまで達している)


 そして、戦闘――

 良いサンドバッグが手に入ったおかげで、訓練の成果も加速している。


「いてて……アニキ、すいやせん……ユナの嬢ちゃん、もう俺じゃきついっす……」


 レイスは仮面の中で微笑を浮かべて頷き、金の入った革袋を差し出した。


「そうか。ご苦労だったな」


「えっ……ま、まさかアニキ……俺、お払い箱っすか……?」


「今日までご苦労だった。達者でな」


「ちょ、ちょ、待ってくださいよ! 俺、これからっすよ!? まだ全然活躍してないっすよ!!」


 バルドラスの慌てふためいた顔を見て、レイスは肩をすくめると革袋を取りあげ、中から数枚の硬貨だけを取り出してバルドラスの手に乗せた。


「冗談だ。今後も頼む」


「アニキぃぃぃぃ!!!」


 大袈裟に泣きながら抱きつこうとするバルドラスを、軽く身をかわして避ける。地面に寝転びながらも泣いてんだか喜んでるんだかわからないバルドラスを見下ろしながら、レイスは心の中で小さく呟いた。


(……騒がしいやつだ)


 バルドラス。元チンピラのリーダー的ポジションだった男。現在はレイスの下につき、裏の仕事をこなしつつ、時折りチンピラを召集して仕事を手伝わせている。

 スキンヘッドで、見た目はいかついが少々頭もキレる。

 そして腕もそこそこあり人望もある。何より忠誠心が高く、人懐っこさも悪くない。だから拾った。


(まあ、裏切らない限りは使ってやるさ)


 そして――


(今夜はマフィアのボスとの会談だ)


 噂に聞く限りでは、中々に癖のある人物らしい。まあこっちとしては敵対するつもりもない。持ちかける話も一見すれば莫大な利益を生むのだから、飛びついてくれれば御の字だ。



 硬貨を指で弾きながら、レイスは静かに歩き出した。




▼お読みいただきありがとうございます!

ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!

感想や活動報告へのコメントも大歓迎です。


新連載につき、一挙20話(プロローグ含む)連続更新中。

毎日21時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ