表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/27

プロローグ 死してなお、静かに始まる

この物語はフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。

温かい目で見ていただけると幸いです。

Void Throne 〜元殺し屋、知らぬ間にラスボスの椅子に座っていた〜



 引き金の音は、ひどく静かだった。


 撃たれた衝撃と、胸に広がる熱。目の前の男――かつて「仲間」と呼んだ男の顔は、どこか安堵すら浮かべていた。


 霧間終は、自分が殺されたことを理解するのに、さほど時間はかからなかった。


 ……裏切りか。

 まあ、ありふれた結末だな。


 心の中でそう呟いた直後、意識が暗転する。


 


 次に目を覚ましたとき、そこは見たこともない空間だった。


 色も匂いも、重力すらも感じない、真っ白な無。


 終は少しだけ眉をひそめた。感情というより、確認のような反応だった。


「よく来たな、人の子よ」


 現れたのは、人とも獣ともつかぬ、黒い影。声は重く、どこか芝居がかっている。


「霧間終――お前に魔王としての素質を見出した。この世界を支配せよ。我が代行として」


 静寂が落ちる。


 終はしばらく黙っていたが、やがて息を吐くように言葉を返した。


「やれと言われて引き受けるような性格してないんだよね、僕はさ。……だから生憎だけどお断りするよ」


「……命令ではない。願いだ。……世界は乱れている。強き者が秩序をもたらさねば、やがて崩壊する。頼む、この世界を導いてほしい」


「なら最初から、そう言えばいい。……だけど、やっぱり断るよ。そういう役割に興味はない」


 黒い影が少しだけたじろぐ気配を見せる。


「……理由を聞いても?」


「僕は、誰かに決められた役割を演じるつもりはない。それだけさ」


 静かな語調。だが、その芯には揺るぎがなかった。


 それでも、黒い影は諦めなかった。


 数度の説得の末、終はようやくわずかに態度を変える。


「……そこまで言うなら、一つだけ条件をつけようか」


「条件、か?」


「ああ。僕がこの世界を支配した暁には――そうだな。君の命をもらおうかな」


 再び、沈黙が落ちる。


「……なるほど。取引か。……いいだろう。世界を掌握したとき、我が命はお前のものだ」


「了解」


「では、魔王の力を――」


「待ってくれ。それは要らない」


「何……?」


「その手の“特別な力”をもらってしまえば、面白くない。僕は、僕のやり方でやる。誰のものでもない僕の力で世界を歩く」


「だが、それでは……」


「受け入れられないなら、この話はここまでだ。“取引”は、対等であるべきだろう?」


 長い沈黙のあと、黒い影は静かにため息をついた。


「……わかった。ならばせめて、失敗を避けるための最低限の加護を与えよう」


「どんな?」


「お前を、不死とする。死すら超える者として、歩め」


「は? ちょっ、まっ――」


 光が収束し、終の身体を包んだ。


 それは温かくも冷たくもなく、ただ“変化”だけを伝えるものだった。


 そして、黒い影は消えた。


 


 終は目の前に開かれた光の門を見つめる。


 その先にあるのは、異世界。

 そして、魔王という名の役割。だが、それはあくまで名目にすぎない。


 彼が歩むのは、与えられた道ではない。


 自ら選び、切り開く道だ。


「……さて。もう一度、生きてみるか」


 霧間終は、静かに一歩を踏み出した。



――これは、元殺し屋が、気付けばラスボスになっていた物語。


▼お読みいただきありがとうございます!

ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!

感想や活動報告へのコメントも大歓迎です。


プロローグを含めた20話分(第十九話まで)一気に公開します。

明日からは、1話ずつ(第二十話から)毎日更新でいきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ